「恋愛中毒」水無月美雨の名言・台詞まとめ

「恋愛中毒(山本文緒)」水無月美雨の名言・台詞をまとめていきます。

 

恋愛中毒

introduction

(離婚に)思ったほどの感慨はなかった。

 

淋しくもないし悲しくもない。かといって嬉しくはない。
特にやる気が出たわけでもないし、無気力にも自暴自棄にもなっていない。

 

一番似ている感情は、長い長い旅行から帰ってきたような感じかもしれない。

 

どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。

 

いくら芸能人でも東京郊外で普通に暮らしている日本人なのだ。
犬の散歩もするだろうし、弁当だって買いに行くだろう。

 

何も私だけが稀有な体験をしたわけではないのだ。
舞い上がるのはいい加減にしよう。

 

(離婚後)二年の間、特に意識していたわけではないけれど、
なるべく日常の中に自分を埋没させるように、凪いでいる水面に波風たてないよう暮らしてきた。

 

その果てしない繰り返しに、私は退屈どころか安堵のようなものを感じていた。
今は禁断症状からやっと立ち直った中毒患者のように、あの頃のことを思い出す。

 

 

結婚していた頃、いや、そのずっと前からも私は何かのウィルスに冒されているようだった。
私はどうかしていた。頭がおかしかった。

 

(浴室の)窓を開けるか閉めるか。
それも些細な日常の選択だ。

 

欲を出さず、ささやかにひっそり暮らしているつもりでも、
やはりこうして何かを選んでいる。

 

一人の夜は底なし沼でも、朝のそれは晴れ渡った空のように軽快だった。

 

私は今朝、わくわくするような青空の下で夢見たことが現実となったのだ。
けれど創路功二郎は最後まで私の名前を聞かなかった。それでもう十分だった。

 

気持ちのベクトルは明らかに創路功二郎の方へと向いている。
けれど感情のままに行動するには、私はちょっと歳をとりすぎている。

 

「あなたにそんなことを言われる筋合いはありません」
「奥様に言われるならまだしも、あなたは単なる(古い)愛人でしょう」

 

「私が暴力をふるわないって、どうして思うんですか?」
「自分が人にすることを、人はしないってどうして自信があるんですか?」

 

もう私は自分の感情をごまかしきれないところまできてしまった。
引き返さないと決めたら自分でも驚くほど度胸がすわった。

 

私達の共通点は創路功二郎なのだ。
その当たり前のことをしっかり自覚しなければならない。

 

彼を独占しないこと。決して惚気(のろけ)ないこと。
対抗意識を隠し、彼を共通の敵として扱うことで私達は親密になっている。

スポンサーリンク

 

「世の中には思いもよらないことが起こるのよ」

 

もしかしたら私は、あんなふうに強引に振り回してくれる人を求めていたのかもしれない。

 

私はまた恐くなった。
このわがままで子供のような大男が恐いのではなく、

 

いつか自分が、帰らないで泊まっていってとこの人にすがってしまいそうで、
それが私には恐かった。

 

「(楽しいことでも?) 人って案外簡単ですよね」

 

私は夫によって、はじめて救われた。
救われる、ということがどういうことかを知った。

 

親は親でしかなく、友人は友人でしかなく、
かといって自分を好きになんかなれなかった私が、生まれてはじめて愛した他人だった。

 

誰だって本当はファーストクラスに乗ってみたい。
けれど乗れないから「馬鹿らしい」と言ってしまう。

 

私は大勢で酒を飲むのが嫌いだ。大勢で酒を飲んで騒いでいる人達を見るのも嫌いだ。
なら見なければいいのに、嫌いなものほど何故かじっと見てしまうのだ。

 

私は泣いた。やっぱり先生が泊まっていかないでよかったと思う。
先生がいたら泣くことすらできない。

 

実家の自室の天井。中学一年生の時にここに越してきて、
それから私は毎晩このベッドで眠りこの天井を見ながら大人になった。

 

たった数カ月だったが、離婚した時も他に行く場所もなくここで眠った。
懐かしさよりも、あるのはただ苦い思い出だけだった。

 

嘘をつくことに抵抗はなかった。
何故なら本当のことを言っても、父が困るだけなのが分かっているからだ。

スポンサーリンク

 

弱い私の両親。
年齢を重ねたからといって、人は必ずしも強くなるわけではないことを私は知った。

 

彼らは現実を受け入れられない。
自分達の娘が自分達の予定通りに育たなかったことを直視できないのだ。

 

「ママの望むようには、私はできないよ」

 

これを未練と呼ぶのだろう。
演歌の歌詞のようだけれど、いつか私はそれに殺されるのではないかと思った。

 

私はこの人にどうしてほしいのだろう。
そして私は他人からどうしてほしかったのだろう。

 

愛しているから期待するのか。愛しているからこそ期待しないのか。
どちらも正しいことのように思えたし、どちらも間違っているようにも思えた。

 

甘やかすことが愛しているということだ。
そうでなくて、どう他人と区別をつけることができるだろう。

 

何か変化があるのなら、結果がもっと悪くなったとしてもここから抜け出したい。

 

いつも私は私に負かされる。
きっとまた痛い目にあうのに何故行くの、と夜のガラスに映った私が訴えていた。

 

関係からあらゆるタブーをなくすことが私の武器であるなら、
何もかも全て受け入れていくしかなかった。

 

もう二度と結婚などしたくない。
二度と結婚しなければ二度と離婚しないで済む。

 

私のしてきたことはあまりにもくだらないことばかりだったし、
これからもそのくだらないことをしていくのだという自覚があった。

 

どう考えても、自分のくだらなさを私は直せそうにはなかった。

 

先生に禁止されていたはずの「もしも」の話をまた頭の隅で考えた。
もしも私が「私」でなかったら、こんなめにあわずに済んだのかもしれないと。

 

生きているのがつらかった。
けれど楽になれる手段がどうしても思いつかなかった。

 

「(頭がおかしい?) やっと分かったのね」

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

アマゾンリンク
恋愛中毒 (Kindle)

 

→山本文緒のインデックス