「今夜、世界からこの恋が消えても(セカコイ)」日野真織(ひのまおり)の名言・台詞まとめ

「今夜、世界からこの恋が消えても(セカコイ)」日野真織(ひのまおり)の名言・台詞をまとめていきます。

 

今夜、世界からこの恋が消えても

「貴方とお付き合いしてもいいけど、条件が三つあります」

 

「一つ目、放課後になるまではお互い話しかけないこと」
「二つ目、連絡のやり取りは出来るだけ簡潔にすること」

 

「最後に三つ目、私のことを本気で好きにならないこと」
「これが守れますか?」

 

知らない彼の、知らない彼女

「じゃあ、明日から恋人同士ってことにしよう」
「よろしくね」

 

「透くんは、私と付き合うのは嫌?」

 

「本当はいつもじゃないんだけどさ。笑える時にはしっかり笑っておこうと思って」
「人間って笑えない時には、本当どうやっても笑えないから……って」

 

「不思議だなぁ」
「なんだか、本当に不思議」

 

「心が急かないっていうか、苦しくない」
「無言でも、ぜんぜん退屈でも窮屈でもない」

 

「こうやって二人で、静かに時間を積み重ねてきた気すらするよ」

 

「(好きになっても?) だめだよ」

 

「私ね……」
「病気、なんだ。前向性健忘っていってね。夜眠ると忘れちゃうの」
「一日にあったこと、全部」

 

歩き始めた二人のこと

言われて思い出す。事故、確かにそれはあったことだ。
間違いない昨日のことだ。

 

世間ではそれはしかし、昨日じゃない。
もう何十日も前のことになっている。

 

私は本当に、記憶障害になっているということなのか。
正直、ちょっと笑えない。笑いたいけど、笑えない。

 

思いもしなかったが、記憶障害の噂が広まることは危険なことでもあった。
どんなことがあっても、私はそれを覚えていることが出来ない。忘れてしまう。

 

誰に、どんなことをされても、一日が過ぎれば……。

 

重要と書かれたそのページを一通り確認していると、息が詰まりそうになった。
開いていた未来が急に閉ざされ、暗闇の中に置き去りにされた気分だ。

 

途中で読むのを放棄したくなる。
事実の重みに……打ちひしがれそうになる。

 

普段なら断るだろう。でもその時の私は閃いて、告白に便乗してみようと考えたみたいだ。
こんな状態でも何か新しいことが出来ないか頑張ってみようと。

 

私はそれまでの一日で、何も積み重ねることが出来ない自分に愕然としていたようだった。
一日が何も出来ずにただ流れていく。そこで思い切って飛び込んだらしい。

 

どうでもいいことがどうでもいいだけに、そういったことを感じられる余裕が昨日の私たちにもあったのだと知り、今の普通じゃない私を勇気付けてくれる。

 

私はこうやって、日々を案外普通に過ごせるのかもしれない。
今日のこともまた、手帳や日記に残さなければ……消えてしまうのだろうけど。

 

記憶が一日しかもたなくても、情報でしか目の前の人のことを知らなくても。

 

 

その人が自分を知っていてくれて、その人の中に私とともに過ごした記憶があれば、
こうやって柔らかい眼差しで自分を見てくれる。

 

不思議と、安心してしまう。
無言になっても嫌じゃない。

 

穏やかな日差しを視界に感じながら、私たちは時間という本を読む。

 

その中で私は、こんな自分を作った神様について考えた。
神様はきっと私たち人間に無関心だ。

 

人間の尺度を越えたところにいる神様は、善でも悪でもないだろう。
けれど、優しいのではないかと。ひょっとしたら、神様は……。

 

ううん、やっぱり……。
神様は意地悪で、残酷だ。

 

「うん……分かった。じゃあ、今日のことは書かない」
「忘れるよ」

 

「その……透くん、今日はありがとう」
「やっぱり君は、すごく優しい人なんだね」

 

今の私の唯一、いいところ。
新しいことはいつも新しい。(日記)

 

”今日の私”は、その動画の当事者ではない。
そこにわずかな寂しさがあり、楽しそうにしている”昨日の私”への、
憧れに似たものがあった。

 

でも、だけど……昨日に負けない喜びや楽しさが、今日も保証されているのかもしれない。
神谷透くんという、見慣れない名前の男の子によって。

 

忘れていく記憶。
蓄積されない記憶に意味はあるのだろうか。

 

「今から十年後か、二十年後ってことはないと思うけど、皆が結婚したとするじゃない?」
「私も……家族がちゃんと持てるのかな」

 

この夏はいつも一度

私はもう努力できない。正確に言えば、努力しても学力は上がらない。
ちょっとだけ、泣きたくなってしまう。

 

手馴れてきた線画の軌跡に、昨日の私たちがいる。

 

それはこんな状態の私でも何かを続けることが出来る、成し遂げることが出来る、
成長することが出来る──そんな証拠のようで、嬉しくなる。

 

変な言い方だけど、今朝の私は昨日の私たちに嫉妬していた。

 

朝、こんなに私が絶望しているのに、
過去の私たちが日記では楽しそうにしていてズルいと感じてしまった。

 

蓄積されていかない情報と、残って行くかもしれない何か。情緒や想い。
私はひょっとして、彼のことが好きになりかけているんだろうか。

 

「透くんって、私のこと好きだったりする?」

 

今日の私は今日限りの私だ。
今日という一日に、悔いは残したくない。

 

「びっくりだな、本当にこんなことしてるんだ」
「恋人と、夏の花火大会に来てるんだ」

 

「いや、地に足の着かない心地で実感がなかったんだけど……」
「それを急に自覚して楽しくなってきたというか、なんというか」

 

たくさん笑った。
ひと夏の想い出を、一日に込めた。

 

記憶と同じように、今のこの感情も消え去ってしまうんだろうか。
根付くことはないんだろうか。

 

あくまでそれは情報として頭では処理され、情緒の動きが蓄積されることはないんだろうか。
願わくば、残り続けるものがありますように。

 

「忘れたく……ないよ」

 

 

「わ、私だって。忘れない。忘れるはずないのに……変だな、楽し過ぎちゃったのかな」
「涙が、とまらないや」

 

ひょっとして彼は、私の記憶障害のことを知っているんじゃないのか。
知っていて、気付いていて、あえて気付かないフリをしているんじゃないか。

 

もし……仮にそうだとしたら、私はもう、何も恐れることはないのかもしれない。

 

「どこにも行かないでね、透くん」

 

空白の白

《障害が治っても、神谷透くんのことを覚えていてね》
《大切なものは、大切な場所にちゃんとあるから》(張り紙の裏)

 

「なんだろう……何か、とっても大切なことを忘れている気がするんだけどさ」
「思い出せないや。ま、当たり前か。毎日、その日の記憶がなくなっちゃうんだもんね」

 

知らない彼女の、知らない彼

ただ、そうやって全てを忘れてしまっていた自分に、愕然とした。
大切だった人のことを簡単に忘れてしまっている自分に、声を失った。

 

でも……ひょっとしたら体は、心は覚えていたのかもしれない。
心臓の鼓動が私に、必死に呼びかけていたのかもしれない。

 

囚われたままでは、歩けない。
だけど私はいつか、悲しくなくなることが、悲しかった。

 

「自分のためにも思い出したいんです」
「大切なものは全部、自分の中にあるはずだから」

 

私の今は、彼に作られた未来によって出来ている。

 

「私は、何も覚えてない。でもね、生きるよ」
「それでいつか、全部、思い出してみせる」

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 
 
 
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