「階段島シリーズ(河野裕)」七草の名言・台詞をまとめていきます。
いなくなれ、群青
僕の日常は、そんな風でよかった。
なにもかも全部終わってしまって、エピローグの翌日から始まるような。
ここはごみ箱なのだ。ごみ箱に捨てられるのは、どこか壊れたり、欠けたりしている物ばかりだ。
「彼女はとてもまっすぐなんだよ」
「言いかえれば、夢想家で理想主義者なんだよ」
真辺に悪意がないことを僕は知っている。攻撃的な意思もない。ただ思ったことを率直に口に出しただけだ。でもストレートな言葉は多くの場合、攻撃的に聞こえる。
「あらゆる言葉は、誰かを傷つける可能性を持っている。明るい言葉でも愛に満ちた言葉でも、どんな時でも間違いのない言葉なんてないよ」
でも僕は経験で知っている。諦めてしまえば、なにも期待しなければ、どんなことだって我慢できる。
彼女の主張は多くの場合において正論なのだ。現実味はないけれど正しいことを言うから、簡単には反論できない。
巨大な秩序に逆らう、ささやかな秩序を、僕は好むのかもしれない。
「一応、筋は通ってるんじゃないかな。可能か不可能かは別として」
嫌な予感がする。彼女に新しいアイデアが生まれるたびに、僕の苦労が増えるのだ。
きっと彼女は繊細で、言葉を丁寧に扱おうとしすぎるのだ
あらゆる誤解に怯えていて、できるなら誰も傷つけたくなくて、だから咄嗟にはなにも喋れなくなってしまう。
変身もできない、必殺技も使えないヒーローが、それでも正義の心を忘れられなかったならきっと、悲惨な結末しか訪れないだろう。
なにもかも諦めていれば、なにも期待しなければ、なんだってできる。
「でも君はちょっと極端なんだ。正しいことの正しさを信じ過ぎている。他の人はもっと、正しいことがそれほどは正しくないんじゃないかと疑っている」
「人は幸せを求める権利を持っているのと同じように、不幸を受け入れる権利だって持っているんだよ」
「いけないことより、大切なことがあるから」
なにをやっても無意味なら、僕にとって、もっとも価値のある結末を目指そうと決めていた。
いいじゃないか、別に。騙されても。
返事のない会話は暗闇の中で捜しものをするのに似ている。
「僕は真辺の隣にいたいわけじゃない。ただ彼女が、彼女のままいてくれればそれでいいんだよ」
「僕たちは初めから、矛盾しているんだよ」
「僕はほんの少しだけ、僕のことが好きになったよ」
その白さえ嘘だとしても
人の成長というのはおそらく、獲得よりは破棄なのだろう。
失望を知らなければ、希望さえ理解できない。
「僕は、真辺に無理やり友人を作ろうとしても、悲しいことにしかならないんじゃないかと思っているけどね」
「僕はね、基本的には、相手の価値観を尊重しない人間が苦手だ。嫌いだと言ってもいい。
でも、君みたいに強引に踏み込むやり方が、物事をずっと効率的に好転させることだってある」
真辺由宇ならこんなことで、思い悩みはしない。当たり前のように暴力的な正論で、明白に正しい答えを目指すだろう。
人間が抱える問題の、たいていの原因は人間だ。
期待というのは本来、極めて個人的なものだ。鍵のかかる引き出しの奥に隠した、秘密の日記みたいなものだ。
汚れた赤を恋と呼ぶんだ
「できるなら納得したいからね。君のメリットがわからなければ、僕はそれを考え続けることになるよ」
「そりゃ秘密って言われると、知りたくなっちゃうものだよ」
自分の価値なんてもの、わかるはずもない。そんなものを確信している高校一年生がいたとしたら、友達にはなれないなと思う。
「わかります。僕もきっと、本当のことを言うときほど、嘘をつくのだと思います」
「あれは、すり減って穴が空いた靴みたいなものだよ。もちろん愛着はある。でも、そのままじゃもう歩けない。だから捨ててしまうほかない」
「信じる対象が変わってしまうことが僕には許せなくて、でも許せないことが問題なんだろうと思ったから、捨ててしまうことにした」
「信仰を失くした僕は、もしかしたら愛されたくなったのかもしれない」
「真辺の友達になるなんて、簡単だよ。そのまま伝えればいいんだ。友達になってよって言えばいい」
「興味はあるよ。でもね、他人の秘密をどうこうしたくはない。僕は秘密を守るのはけっこう得意だけど、暴くのは苦手だよ」
「僕は君に嘘をつくことに、ほんの少しの抵抗もなかった」
「君が望む言葉なら。あるいは君が傷つかずにすむ言葉なら。あるいは少しでも君が生きやすくなる言葉なら。僕は躊躇なく嘘をついた」
「長いあいだ、ずっと僕が怖れていたのは、それだったんだよ。君が傷ついて、変わってしまうことだったんだよ」
「嫌いなところもたくさんある。嫌いなところも、気に入っている。思い返してみれば、僕がちゃんと嫌いになるのは、君くらいんだ」
「泣くのは、自分の人生を生きているから。二度目の人生がないのは、だれだってきちんと泣いたことがあるから」
本来、英雄とは否定的な理想主義者なんだと思う。理想のためになにかを否定するものなのだと思う。
「本当に大切なものを、ふいに壊したくなることがあるんだよ」
「大切なものがいつか壊れてしまうんだと思うと、怖くて、怖くて。ずっと怯えているくらいなら、今この時になくなって欲しいと思うんだ」
「叱るのって、大変なんだよ。あまり気持ちの良いものじゃない。とてもエネルギーを使う」
「予想しただけだよ。悪い予想はたいてい当たるんだ」
「理想は現実の対義語だよ」
「一緒に考えよう。どんな答えになるにせよ、ふたりで考えよう。君が相談してくれると、僕は嬉しい」
凶器は壊れた黒の叫び
こうすることが正しいんだ、なんて、言えるはずがない。今でもまだ半分は間違っているのだと思っている。
もし不必要な自分を、自覚的に、能動的に捨てられたなら、人はそれを努力と呼ぶはずだ。
途中で魔女の力を借りたていたとしても、僕にはそれを否定できない。
「会話っていうのは、なにを言うのかだけが重要なわけじゃない。本当に大切なのは、なにを言わないでいるのかだ」
「その先に足を踏み出すのが、僕にとってのヒーローだ。相手がどれだけ強くても、自分がどれだけ弱くても、それでも戦う。だから尊い」
「失敗だって結果だ。そして、自分のために無残に負けた人が眼の前にいることが場合によっては救いになる」
僕は真辺の理想には共感できないけれど、彼女の姿勢を愛している。
「言葉の扱いでも、君と僕は違う。君は言葉をそのまま受け取るのが誠実だと思っている。僕は心情をできるだけ汲み取るのが誠実だと思っている。正反対だ」
「逃げた方が楽しいこともあるけど、今はそうじゃない。僕が決めた。だから、仕方ない」
「自分が恰好いいと思うのは、楽しいでしょ。楽しいなら怖くないよ」
「真実に現実味なんてものが、あるわけないじゃないですか」
「僕は幸せになりたいわけじゃない。でも不幸にはなりたくない。本当に大切な夢を諦めるのは不幸だ。幸せになれたとしても、不幸だ」
「本当に、忘れたいことなんかない。なにひとつない」
「大好きだよ。ずっと長いあいだ、今でももちろん、僕にとっていちばん大切なのは君だ」
「僕たちの魔法は、完璧ではないかもしれないけど、でも悲しいだけだなんてあり得ない」
夜空の呪いに色はない
「真辺がどんな答えを出すのかはわからない。でも、彼女のやり方は単純だ」
手を抜くつもりはない。でも僕の幸せは、敗北の方にある。
「でも、やっぱり真辺に恋人ができるのは嫌な感じがしたな」
信頼という言葉が苦手だ。なんだか暴力的だから。
「真辺由宇は幸せになんかなれないよ。当たり前だろ。現実になるはずもない理想を追い続けるのが彼女なんだから」
世の中には不可能ばかりがあふれているのは、ある意味では救いなのだろう。
願っても祈っても届かないから、愚痴をこぼして諦められる。
「たぶん、本当の自分なんか、結果論みたいなものなんです」
すべての決断は、苦しい。大きな責任を伴う決断は、より苦しい。
「なにを捨てても、大人にはなれないよ」
じゃあ、後悔しない選択なんて、どこにあるっていうんだ?
きみの世界に、青が鳴る
この世界は、端的に真辺由宇を表していた。
無邪気に希望を目指して、失敗して、失敗して、いくらでも諦める機会はあるのに、でも絶望しない。延々と苦痛が繰り返される。鋭利に尖った彼女が決して折れないでいる地獄。
「でも理想を想像しない現実主義なんてものは、自殺志願者みたいなものだ」
「君にとっては、希望こそが悲劇を生むんだろう。諦められないことが、世の中を壊すんだろう。だから悲劇の手前に絶望を置こうとする。希望を奪って諦めろと言う」
だって真辺由宇は、反論されるためにいる。
誠実であろうとするほど、不誠実にしか振る舞えない。
「それを選ぶことを、僕は決して成長とは呼ばない」。ただの敗北だ。
それは本当は、偽物なのかもしれない。目覚めるたびに消えてしまう、夢のようなものなのかもしれない。だとしても、優しい夢は無価値じゃない。
理屈はない。確信もない。だけどきっと、嘘じゃない。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。