「杜子春(芥川龍之介)」の名言まとめました

「杜子春(芥川龍之介)」の名言をまとめていきます。

杜子春

或春の日暮です。
唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。

若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費い尽して、その日の暮しにも困る位、憐れな身分になっているのです。
(本作の書き出し)

 

門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽子や、土耳古の女の金の耳環や、白馬に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のような美しさです。

 

「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし」

「こんな思いをして生きている位なら、一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない」

「ではおれが好いことを一つ教えてやろう」

「今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に当る所を夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」

 

杜子春は一日の内に、洛陽の都でも唯一人という大金持になりました。
大金持になった杜子春は、すぐに立派な家を買って、玄宗皇帝にも負けない位、贅沢な暮しをし始めました。

 

するとこういう噂を聞いて、今までは路で行き合っても、挨拶さえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやって来ました。

 

しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。

 

そうすると人間は薄情なもので、昨日までは毎日来た友だちも、今日は門の前を通ってさえ、挨拶一つして行きません。

 

今では椀に一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。

 

杜子春はその翌日から、忽ち天下第一の大金持に返りました。と同時に相変らず、仕放題な贅沢をし始めました。

 

あの夥しい黄金も、又三年ばかり経つ内には、すっかりなくなってしまいました。

「いや、お金はもういらないのです」
「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想がつきたのです」

 

「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔しい顔さえもして見せません」

 

「おれはこれから天上へ行って、西王母に御眼にかかって来るから、お前はその間ここに坐って、おれの帰るのを待っているが好い」

「もし一言でも口を利いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟しろ」

 

「大丈夫です。決して声なぞは出しはしません。命がなくなっても、黙っています」

 

その苦しみを数え立てていては、到底際限がない位、あらゆる責苦に遇わされたのです。それでも杜子春は我慢強く、じっと歯を食いしばったまま、一言も口を利きませんでした。

 

その獣を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといえばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩せ馬でしたが、顔は夢にも忘れない。死んだ父母の通りでしたから。

 

「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰っても、言いたくないことは黙って御出で」

 

杜子春は老人の戒めも忘れて、転ぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸を抱いて、はらはらと涙を落しながら、「お母さん」と一声を叫びました。

 

「なれません。なれませんが、しかし私はなれなかったことも、反って嬉しい気がするのです」

 

「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ」

 

「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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