「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。(汐見夏衛)」の名言・台詞をまとめていきます。
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
溶けそうに暑い夏だった。
悪夢のような世界で、私は初めての恋をした。(加納百合)
強くて優しい瞳のあなたに、
死を覚悟したあなたに、
全身全霊をかけて、精いっぱいの恋をした。(百合)
序章
生まれてはじめて私が愛した人は、特攻隊員だった。
彼は、私と出会ったときには、もうすでに死を覚悟していた。(百合)
「愛する人たちを守るために、俺は死にに征くよ」(佐久間彰)
風に吹かれる花びらのように儚く散ってしまったあなたが、せめて今は、
優しい夢の中で、安らかに眠っていることを祈ります──。(百合)
第一章
なんで、こんなに苛々するんだろう?(百合)
自分でも理由なんか分からない。
でも、私は毎日毎日、とにかく苛々している。(百合)
私は学校が大嫌いだ。
こんなにも息苦しい場所が、ほかにあるだろうか。(百合)
毎日毎日、同じことの繰り返し。
代わり映えのしない、平穏すぎてつまらない生活。(百合)
いやだ。苛々する。早く抜け出したい。
でも、どうやったら抜け出せるんだろう?(百合)
思えば、つまらない人生だった。
楽しいことなんか、なんにもなかった気がする。(百合)
未来に希望もなんにもない。
ああ、そう考えたら、私なんか死んだって構わないか……。(百合)
「……君、なんだ、その格好は?」
「それは肌着か? 足が丸見えじゃないか」(彰)
「モンペはどうした、盗まれでもしたか?」(彰)
どうしてだろう。
ひねくれ者の私のはずなのに、彼と話していると妙に素直な受け答えをしてしまう。
まるで自分じゃないみたいだ。(百合)
「でも、心配することはありません」
「しばらくしたら、この戦争も終わりますよ」(彰)
「俺たちが必ずや敵国に痛手を負わせて、戦争を終わらせてみせます」(彰)
「俺は、出撃したら、絶対に敵軍の中枢に突撃します」
「そのために特攻隊に入隊したんですから」(彰)
もしかして私、今、昔の世界にいるの?
私が生きている時代の七十年前の世界に?(百合)
まさか、SF映画とかでよくある、タイムスリップ、ってやつ?(百合)
「……いただきます」(百合)
こんなにも真剣な、純粋な感謝の気持ちでこの言葉を口に出したのは、
たぶん生まれてはじめてだと思う(百合)
なんて優しい人だろう。
どこの誰かも分からない、役に立つかも分からない私を引き取ってくれるなんて。(百合)
この人がいなければ、きっと私はこの見知らぬ世界で路頭に迷い、
数日のうちに命を失ったことだろう。(百合)
そこまで考えて、急に、いちばんはじめに私を助けてくれた男の人──
佐久間さんのことを思い出した。(百合)
私の命の恩人だ。(百合)
また会えるかな。
そしたら、ちゃんとお礼を言おう。(百合)
この光景を見るたびに、私は自分のいた世界とは違うところに来てしまったんだと実感して、
やるせない気持ちになる。(百合)
「はじめて君の笑顔を見たな」
「喜んでもらえて嬉しい、連れてきた甲斐があったよ」(彰)
「妹は男勝りでね、兄のことも呼び捨てにするんだ」
「懐かしいなぁ……」(彰)
あきら、と下の名前で呼べることは、距離が縮まったような気がしてなんだか嬉しかった。
でも、妹さんと重ね合わせられることは、少し複雑な気がした。(百合)
私は、学校なんて、授業なんて、大嫌いだった。
でも……今となっては、懐かしい。(百合)
「普通に学校行って、普通に授業受けて、普通に友達とおしゃべりして」(百合)
「そういうの、失ってはじめて、すごくかけがえのない」
「ありがたいものだったんだって思う」(百合)
「日本軍がアメリカに勝てば、全て元通りになる」
「みんな、百合も俺の妹も、昔のように学校に通えるようになる」(彰)
「……俺たちが通えるようにしてみせる」
「この命を懸けて」(彰)
「……馬鹿じゃない?」
「なんでそんなことしなきゃいけないの?」(百合)
「そんなことになるくらいなら」
「戦争なんか、はじめからやらなければよかったんだよ」(百合)
「……たしかに、そうかもしれないな」
「戦争なんて、やらなければよかったんだ」(彰)
「たくさんの命を失って、たくさんの人を苦しめて」
「たくさんの人の自由を奪って……」(彰)
「……でも、始まってしまったからには、勝たなくてはならない」
「敗けてしまったら、これまで以上に日本は悲惨な状況になるだろう」(彰)
「戦勝国に占領されて、何もかもを奪われて、兵士たちは捕虜となり」
「一般市民も奴隷のような扱いを受けてしまうんだよ」(彰)
「俺の弟や妹も、百合やツルさんも……」
「そんなことは、考えただけでも恐ろしくて仕方がない」(彰)
「だから、そうならないためにも、俺たちは、日本軍は」
「なんとしてでも勝たなくてはならないんだよ」(彰)
「……なにそれ、ぜんぜん分からない」(百合)
「ほかの誰かを救うためなら、誰かが死んでも構わないの?」
「誰かを救うためなら、自分の命を失ってもいいの?」(百合)
「……そんなの、おかしいよ」(百合)
こんなふうに、現代の人と変わらず、普通に恋をしたりしている。
だから、戦時中とはいえ、日常生活を送る人々の様子はあまり違いがない。(百合)
「兵隊さんは戦地で戦い、わたしたちは銃後を護る」(千代)
「(豪華な料理?) あの方たちは、みんな特攻隊の隊員なんだよ」
「お国のために若い命を捧げなさる、生き神さまだよ」(ツル)
「命令されたから行くわけじゃないよ」(寺岡昌治郎)
「……特攻なんて、自分から死にに行くなんて、馬鹿だよ」
「そんなの、ただの自殺じゃん……」(百合)
「馬鹿だよ」
「特攻を命令した偉い人も、それに従ってる人たちも、みんな馬鹿」(百合)
「やめればいいのに」
「逃げちゃえばいいのに」(百合)
第二章
幸せだった。
この時間が永遠に続けばいいのに──
なんて、叶うはずもないことを、願ってしまうほどに。(百合)
「狂ってるよ……おかしい……」
「日本もアメリカも……」(百合)
「この馬鹿! 命が一番だろう!」(彰)
──地獄だ。
ここは地獄だ、と思った。
これが地獄でなくてなんなのだろう?(百合)
「俺たちがきっと戦争を終わらせてやる」
「少しでも日本に有利に終わらせてみせる」(彰)
「そうしたら、必ず平和な時代が来るよ」
「百合を怖がらせるものは、なんにもなくなるよ」(彰)
「俺は、そのためなら命も惜しくない」(彰)
どんな夜にも、必ず朝は来る。
たとえ地獄のように残酷な、悪夢のように悲惨な夜であっても。(百合)
数日後に確実に死ぬということが分かっているなんて、異常だ。
そんな異常な状態に置かれている人たちに、どんな顔をして向き合えばいい?(百合)
「俺は、死ねないんだ。彼女のために」
「彼女には俺しかいないんです」(板倉)
「板倉さんは、『死にたくない』んじゃない」
「『生きたい』んだ」(百合)
「行け。お前は生きろ」(彰)
「俺が、ふたり分の戦果をあげてやる」
「お前の分まで、俺はやる」(彰)
「だからお前は……守るべき者を守れ」
「お前は、生きて守れ」(彰)
「今までありがとう。行って」(百合)
「……百合、百合。ごめんな、ありがとう……」(彰)
こんなにも救いのない、無惨な狂った世界を作った神様。
彰の死を無情にも見過ごそうとしている、残酷な神様。(百合)
せめて今日くらいは、最後くらいは、私の願いを叶えてよ。(百合)
第三章
私たちは、日常的に命の危機を感じながら生きたりする必要がない。(百合)
こんなに満ち足りた生活をしていて、あの頃の私は、
いったい何が不満だったんだろう?(百合)
君のことを、もうひとりの妹のようなものだと言ったことがあったが、
すまない、あれは嘘だった。(彰の手紙)
俺は君のことを愛していた。(彰の手紙)
あの空に俺は散る。君のために。
君という花が咲く、この世界のために。(彰の手紙)
ここが、彼らの守ろうとした世界だ。
これが、彼らが自らの命を犠牲にしてまで叶えようとした平和だ。(百合)
そうか、俺は怖いのか、と他人事のように思った。(彰)
百合、もう一度会いたい。(彰)
俺は、生まれ変わっても必ず、君を見つける。
そして、もう一度、出会う。(彰)
生まれ変わったら──あの花が咲く丘で君とまた出会えたら。(彰)
──いつか必ず、また会おう。
あの花が咲く丘で、また出会おう。(彰)
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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