「芋粥(芥川龍之介)」の名言まとめました

「芋粥(芥川龍之介)」の名言をまとめていきます。

芋粥

元慶の末か、仁和の始にあった話であろう。

どちらにしても時代はさして、この話に大事な役を、勤めていない。読者は唯、平安朝と云う、遠い昔が背景になっているといると云う事を、知ってさえいてくれれば、よいのです。
(本作の書き出し)

 

某と書かずに、何の誰と、ちゃんと姓名を明にしたいのであるが、生憎旧記には、それが伝わっていない。恐らくは、実際、伝わる資格がない程、平凡な男だったのであろう。

 

五位は、風采の甚揚らない男であった。

一々、数え立てていれば、際限はない。我五位の外貌はそれ程、非凡に、だらしなく、出来上っていたのである。

 

その結果であろう、今では、誰が見ても、この男に若い時があったとは思われない。

 

こう云う風采を具えた男が、周囲から、受ける待遇は、恐らく書くまでもない事であろう。侍所にいる連中は、五位に対して、殆ど蠅程の注意も払わない。

五位は、腹を立てた事がない。彼は、一切の不正を、不正として感じない程、意気地のない、臆病な人間だったのである。

 

五位はこれらの揶揄に対して、全然無感覚であった。少くも、わき眼には、無感覚であるらしく思われた。彼は何を云われても、顔の色さえ変えた事がない。

 

彼は笑うのか、泣くのか、わからないような笑顔をして、「いけぬのう、お身たちは」と云う。

 

悪態をつかれて、腹が立ったからでは毛頭ない。云わなくともいい事を云って、恥をかいた自分が、情なくなったからである。

 

では、この話の主人公は、唯、軽蔑される為にのみ生れて来た人間で、別に何の希望も持っていないかと云うと、そうでもない。

五位は五六年前から芋粥と云う物に、異常な執着を持っている。

 

人間は、時として、充されるか、充されないか、わからない欲望の為に、一生を捧げてしまう。その愚を哂う者は、畢竟(ひっきょう)、人生に対する路傍の人に過ぎない。

 

終始、いじめられている犬は、たまに肉を貰っても容易によりつかない。

 

答え方一つで、又、一同の嘲弄を、受けなければならない。或は、どう答えても、結局、莫迦にされそうな気さえする。

この朔北の野人は、生活の方法を二つしか心得ていない。一つは酒を飲む事で、他の一つは笑う事である。

 

阿諛は、恐らく、こう云う時に、最自然に生まれて来るものであろう。
(阿諛とは、相手の気に入るようにふるまうこと)

 

「何とも驚き入る外は、ござらぬのう」五位は、赤鼻を掻きながら、ちょいと、頭を下げて、それから、わざとらしく、呆れたように、口を開いて見せた。

 

我五位の心には、何となく釣合のとれない不安があった。

 

どうもこう容易に「芋粥に飽かむ」事が、事実となって現れては、折角今まで、何年となく、辛抱して待っていたのが、如何にも、無駄な骨折のように、見えてしまう。

 

自分が、その芋粥を食う為に京都から、わざわざ、越前の敦賀まで旅をして来た事を考えた。考えれば考える程、何一つ、情無くならないものはない。

 

芋のにおいと、甘葛のにおいとを含んだ、幾道かの湯気の柱が、蓬々然として、釜の中から、晴れた朝の空へ、舞上って行くのを見た。

これを、目のあたりに見た彼が、今、提に入れた芋粥に対した時、まだ、口をつけない中から、既に、満腹を感じたのは、恐らく、無理もない次第であろう。

 

遠慮のない所を云えば、始めから芋粥は、一碗も吸いたくない。それを今、我慢して、やっと、提に半分だけ平げた。

もう後は一口も吸いようがない。

 

「いや、もう、十分でござる。……失礼ながら、十分でござる」

 

五位は、芋粥を飲んでいる狐を眺めながら、此処へ来ない前の彼自身を、なつかしく、心の中でふり返った。それは、多くの侍たちに愚弄されている彼である。

しかし、同時に又、芋粥に飽きたいと云う慾望を、唯一人大事に守っていた、幸福な彼である。

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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