コナン・ドイル作「シャーロック・ホームズシリーズ」
ホームズの名言・台詞や推理の考え方を作品別にまとめていきます。
緋色の研究
「だがいまこうして知ったからには、これからはせいぜいそれを忘れるように努めなきゃ」
「それがぼくにとってなんの役に立つんです?」
「われわれは太陽のまわりをまわっている、そうきみは言う。ですがね、たとえわれわれのまわっているのが月のまわりであろうと、それはぼくにとって、あるいはぼくの仕事にとって、これぽっちの差異ももたらすわけじゃないんです」
「そもそも犯罪というやつには、それぞれにいちじるしい類似性があるものでね。だから、およそ一千もの事例に精通しているかぎり、一千一例めのやつが解き明かせないというほうが、かえって不思議なくらいなんです」
「きょうび、まともな犯罪や犯罪者には、めっきりお目にかかれなくなった。せっかくぼくほどの頭脳をそなえていながら、職業のうえでは、それがなんの役にも立っていない」
「ぼくには一目でわかったんだが、どうしてわかったのかを説明するほうが、かえってむずかしい。二足す二が四になることはよく知ってても、そうなる理屈を説明しろと言われたら、ちょっと困るのとおなじでね」
「まだ判断の材料がないからね。具体的な証拠がそろわないうちに、論を立てようとするのは大きなまちがいだよ。それは判断をゆがめるおそれがある」
「よく言われることだが”天才とは無限に努力しうる才能”なんだそうだ。ずいぶん雑駁(ざっぱく)な定義だが、それでも探偵仕事にはたしかにあてはまるね」
「手品師はいったん種明かしをしてしまったら、もう感心されないし、尊敬もされなくなる」
「ぼくの捜査方法にしてもおなじだ。きみにあんまり手のうちを明かしすぎると、なんだ、所詮はおまえもただの凡人じゃないか、ってな結論を出されかねないからね」
「ああいった物乞いの子供ひとりが、十人もの警官に匹敵することだってあるんだ」
(浮浪児6人からなる「ベイカー街少年隊」について)
「もっと自分を信頼すべきだったな。とっくにわかっててもよかったんだ。あるひとつの事実が、そこまでたどってきた長い推理の筋道と矛盾するように見えるときは、必ずやそこに、なにかべつの解釈がありうるということに」
「あのね、どれだけ仕事をしたかなんてこと、世間じゃたいして問題にはされないのさ。問題はむしろ、どれだけの仕事をしたと、世間に信じさせられるかどうかなんだから」
「いつかも話したことだが、異常な事柄というのは、手がかりにこそなれ、けっして捜査の妨げにはならない」
「たいていのひとは、一連の出来事を順序だてて説明されれば、その結果がどうなるかを言いあてることができる。それらの出来事を頭のなかで積み重ねていって、そこから出てくる結果を推測するわけだ」
「しかるに、ある結果だけを先に与えられた場合、自分の隠れた意識の底から、論理がどういった段階を経て発展して、そういう結果にいたったのか、それを分析できる人間はほとんどいない」
「あとへあとへと逆もどりしながら推理する、もしくは分析的に推理するとぼくが言うのは、この能力のことを意味してるんだ」
四人の署名
「ぼくはけっして名利はもとめない。ぼくの名が新聞紙上を飾ることもない。ただ純粋にその仕事そのもの、ぼくの独特の能力を発揮できる舞台を見いだす喜び、それだけがぼくにとってのこのうえない報酬なのだから」
「ぼくはけっして当て推量はしない。当て推量なんて、とんでもない悪習だよ。論理的な能力を損なうだけのものさ」
「なによりたいせつなことはね、相手の個人的資質によって、その相手への判断を狂わされないようにすることさ」
「依頼人というのはこのぼくにとって、ある問題を構成するひとつの単位、ひとつの因子にすぎない。好悪の感情なんてものは、明晰な推理の敵以上のなにものでもないんだから」
「ぼくは例外を認めない。例外は原則を否定するものだ」
「それは逆だよ。刻一刻とはっきりしてきている。あとほんの二つ三つ、欠けている鎖の環が見つかりさえすれば、全体がぴたりとつながるんだ」
「これまでに何度も言ってるじゃないか。ありえないことをぜんぶ排除してしまえば、あとに残ったものが、どんなにありそうもないことであっても、真実にほかならない、と」
「ああいう手合いと話をするときにはね、向こうの言うことがこっちにとって、わずかでも値打ちがある、とぜったいに相手にさとられないのがなにより肝心なのさ」
「それをさとらせてしまったが最後、向こうは牡蠣のように口をとざしちまう」
「いや、疲れていないんだ。どうもいささか妙な体質でね。仕事ちゅうは、疲れを感じた覚えがない。そのかわり、だらけてると、たちまち体調がおかしくなる」
「といっても、ぼくならそのへんをあまり詳しくしゃべったりはしないがね」
「女性というのは、いつの場合も、とことんまで信頼しきることはできないという通弊がある。どんなにすぐれた女性においてもだ」
「こういったごく簡単なことほど、じつはもっとも見のがされやすいのさ」
「つけるかどうかじゃなく、つかなきゃいけないんだ、なんとしてでも!」
「恋愛というのは情緒的なものであり、おしなべて情緒的なものというのは、ぼくがなにより重きを置く、純正かつ冷徹な理性とは相容れない」
「だからぼくは、自分の判断力を狂わせないためにも、生涯、結婚なんかしないつもりでいるのさ」
シャーロック・ホームズの冒険
ボヘミアの醜聞
「そりゃそうだろうさ。きみはたしかに見てはいる。だが観察はしない。見るのと観察するのとでは、大ちがいなんだ」
「このときちらっと目にはいっただけだが、たしかにきれいな女だったよ。あれならば男が焦がれ死にしても無理はない、そんな美貌だった」
(アイリーン・アドラーについて)
「いや、これよりもぼくにとって、もっと価値のあるものを陛下はお持ちです」
「この写真です」
赤毛組合
「近ごろぼくは、なまじ説明なんかするのはまちがってるって、そうさとりだしたところなんだ。諺にも言うじゃないか──”なべて未知なるものこそ偉大なれ”って」
「なのにぼくはばか正直が過ぎて、おかげでせっかくのささやかな評判も、いずれうたかたの露と消えることになるだろう」
「ここの建物の配置だが、これをよく覚えておこう。ロンドンという街について、正確な知識を持っておくというのが、ぼくの趣味のひとつなのさ」
「まあ退屈しのぎにはなったがね。おやおや、その退屈が早くもぶりかえしてきたぞ!」
「思うにぼくの一生というものは、平々凡々たる生きかたからのがれようとする闘いの、そのはてしなき連続じゃないのかな。その闘いでぼくを助けてくれるのが、こうしたささやかな事件なのさ」
花婿の正体
「人生というのは、およそひとの心が思いつけるようなどんなものよりも、はるかに不思議なものだね。実際には日常のごくありふれた事柄でしかないものにも、われわれの想像ではとても追いつかない部分がある」
「いや、ご心配なく。物事を知るというのがぼくの仕事ですから。たぶん、ほかのだれもが見落とすようなことでも、仔細に見てとるという訓練ができているんでしょう」
「でなければ、あなただって、わざわざぼくの助言をもとめにいらしたりはしないはずです」
「見えなかったんじゃなくて、気づかなかったんだよ、ワトスン。どこを見るべきかを知らないから、大事なところをみんな見落としてしまう」
「かりに話したところで信じないだろうね。ペルシアの古い諺にもあるとおりさ。”虎子を得んとするものに災いあり、女より幻想を奪わんとするものにも災いあり”って」
「ハーフィズの言葉には、ホラティウスのそれにも劣らぬ含蓄があるし、おまけにこの詩人は世間をよく知っているよ」
ボスコム谷の惨劇
「ところが、その状況証拠なるものこそ曲者なのさ。それはひとつところをまっすぐ指し示しているかに見える」
「しかるに、視点をほんのすこしずらしてみると、そのおなじ証拠が、まったくおなじ揺るぎのなさで、それとは正反対のなにかを指し示しているとわかるんだ」
「結構です。ですが、あなたを裁くのはぼくの役目ではありません」
五つのオレンジの種
「ぼくの友達といえば、きみしかいないよ。べつに客を呼んだりすることもないしね」
「そこで、まず真っ先に考えるべきは、あなたの身にひしひしと迫っている危険を取り除くこと。謎を解いたり、悪人どもを懲らしめたりするのは、二の次、三の次です」
「今回の事件では、これまでの出来事の結果がどうなるか、それはまだつかめていない。それは推理によってのみ到達できるものだからね」
「五官に頼って解決をもとめる連中が、ことごとく行きづまったような難問でも、書斎にいるだけで解けることはあるんだ」
「ぼくはプライドを傷つけられたよ、ワトスン。もちろん、けちな感情ではあるんだが、それでもプライドが傷ついたことはまちがいない。こうなれば、もはやぼく自身の問題だ。ほうっておくわけにはいかない」
「今後はこの命あるかぎり、いつかぜったいにこの悪党一味をこの手で捕えてみせる」
「飢え死にしそうだよ。食べることなんか忘れてた。朝からなにも食べていない」
くちびるのねじれた男
「ねえ、ワトスン、きみは沈黙というすばらしい資質に恵まれているね。だからこそきみは、かけがえのない旅の道連れなんだ」
「実際、ぼくにとっては、話したいときに話し相手になってくれるだれかがいてくれる、これほどありがたいことはない」
「じつはこの事件、うわべはばかばかしいほど単純に見えるが、そのくせ、どこから手をつけたらいいのか、さっぱりわからないときている。いってみれば、糸口は山ほどありそうなのに、どれもしっかりつかめない、といったところかな」
「これでもぼくはいろんな経験をしてきましたから、女性の直観のほうが、分析的推理による結論よりも値打ちがある場合もある、それを知らないわけではありません」
青い柘榴(ざくろ)石
「シャーロック・ホームズというものだが、他人の知らないことを知るというのがぼくの商売なんでね」
「いまはクリスマス──ひとを許す季節だ。ひょんなことから、すこぶる珍しくて風変わりな事件が、ぼくらの手にころがりこんできた」
「だから、その解決それ自体がひとつの報酬なのさ」
まだらの紐
「はは、なかなか愉快なご仁だね。あともうすこしここで辛抱していてくれれば、ぼくも体の大きさでは及ばないまでも、腕力ではたいしてひけをとらないことを証明してやれたんだが」
「隠微も隠微、忌まわしさもじゅうぶん、まさにお釣りがくるくらいさ。医者が悪の道に走ると、最悪の犯罪者になる傾向がある。なにしろ度胸もあり、知識にも事欠かないからね」
「暴力を用いれば、畢竟(ひっきょう)、それがおのれにはねかえってくる。他人のために穴を掘るものは、自らその墓穴に落ちる。因果応報さ」
技師の親指
「経験を得たさ。間接的ながら、それがいずれ役に立ってくれるときがくる。今回の経験を言葉にして語るだけで、これから先一生、座談に長けたひととして評判を得られるだろうからね」
独身の貴族
「これはどうも、あまりありがたくない社交的なご招待と見たね。そういう場所に出ると、退屈させられるか、心にもない嘘を強いられるかするだけなんだ」
「いやね、ワトスン、気どって言うわけじゃないが、依頼人の身分なんてのはこのぼくにとって、事件への興味ほど重みもないんだ」
「かたじけなくもあのお殿様、ぼくの頭をご自分の頭と同列に扱ってくれたよ」
「たしかになにもないと見えるかもしれない。それでもやはり、きわめて重要なんだ」
緑柱石の宝冠
「問題があなたや警察の当初考えたのよりも、はるかに底の深いものであると、まだお気づきにならないのはなぜでしょう」
「あなたには、事件は単純なものと見える。ぼくにはそれがきわめて複雑なものと見える」
「残念ながら、ありうるありえないの問題ではない。事実なのです」
橅(ぶな)の木屋敷の怪
「ぼくはいつだってそうなんだ──いつ見ても、なんだかぞっとさせられる」
「これは経験から言うんだけどね、ワトスン、こういう明るく美しい田園のほうが、ロンドンの最低、最悪の裏町なんかより、よほどおそるべき悪の巣窟だと言うべきなんだよ」
「いいかいワトスン、きみも医学者として、両親を観察することで子供の性向を診断するということは、たぶん日常的にやっているはずだ。なら、逆もまた真なり、とは思わないか?」
「ぼくにはたびたびそういう覚えがある──子供を観察することで、両親の性格をはじめて正しく認識することができた、という覚えがね」
回想のシャーロック・ホームズ
「シルヴァー・ブレーズ」号の失踪
「じつをいうとね、これは新たな証拠をつかむことよりも、むしろ、すでに知られている事実をいかに取捨し、選択してゆくか、その点にこそ推理という技術を生かすべきだという、そういう事件なんだ」
「わかっただろう、想像力の値打ちってものが。気の毒だがグレゴリーのせんせいに欠けてるのは、その想像力なのさ」
「われわれはまずなにがあったかを想像し、その想定にもとづいて行動し、そしてそれが正しかったことを確認した」
マズグレーヴ家の儀式書
「きみがはじめてぼくと知りあって、『緋色の研究』として記録に残してくれたあの事件のころでさえ、たいして儲かるというわけじゃないにしても、いちおうの地歩は確立して、得意先もかなりついていたんだ」
「だから、それ以前にぼくがどれだけ苦労したか、たぶんきみには想像もつくまいし、ようやくこれが仕事として軌道に乗り、前を向いて進めるようになるまでに、どれだけ長い辛抱を強いられたかも、きみに察してもらうのはむずかしいだろう」
「すくなくともこれは、もうひとつの謎を提供してくれてるよ。しかもその謎は、はじめの謎よりもさらに興味ぶかい」
「いっぽうの謎が解ければ、それがそのままもういっぽうの謎の解答となる、そういうことも考えられるね」
「こういう場合にぼくがいつもとる方法、きみなら知ってるだろう、ワトスン。自分をブラントンの立場に置いてみるのだ」
「まず手はじめに、対象とする人間の知力の程度を見きわめる。そのうえで、自分がおなじ状況に置かれたら、どんなふうに問題に取り組むだろうかを想像してみる」
ライゲートの大地主
「運命はきみに味方しないようだな、ワトスン」
「事件はますますおもしろくなってきたよ。ねえワトスン、きみのすすめてくれた田舎の旅は大成功だったね。じつに気持ちのいい朝を過ごさせてもらっている」
背の曲がった男
「正義が行われるようにするのは、万人の義務だからね」
寄留患者
「そちらがぼくをごまかそうとなさっているかぎり、こちらもご相談に応じるわけにはいきまんね。アドバイスなら、こう言っておきましょう──真実をお話になることです、と」
ギリシャ語通訳
「なぜって、兄弟のマイクロフトが、ぼく以上によくその資質をそなえているからだよ」
「ぼくはね、ワトスン。謙遜を美徳のひとつに数える一派に与しないんだ」
「厳密な論理家にとっては、あらゆる事象はすべてあるがままにとらえられるべきであって、自分を過小評価するというのは、自己の能力を誇大に評価するのとおなじく、真実から遠ざかるものにほかならない」
「ぼくが言ったのは、彼が観察および推理にかけてはぼくよりすぐれている、ということさ」
「探偵術というものが、安楽椅子にかけたまま推理を働かすことで始まり、かつ終わるものであるのなら、それなら兄は古今に比類ない大探偵になっていただろう」
「まあね。すでにこれだけの事実が判明してるんだから、残りがつきとめられなければ、むしろ不思議なくらいさ」
海軍条約事件
「警察というところは、事実を集めるという点では、なかなか有能ですから。ただあいにく、集めたそれを有効に使いこなせるとは、必ずしも言いきれない」
「疑っていますよ、ぼく自身を。あまりにも早く結論に到達してしまったことについて、です」
「およそ犯罪のうちでももっとも追求の困難なのは、無目的な犯罪だ。だが、今度のこれは、けっして無目的じゃない」
「ひとつの可能性というだけだよ。ただしその可能性をまったく排除してしまうわけにもいかない」
「なに、ほんのかすり傷だ──しかもぼく自身のどじで、自業自得さ」
「こんなやりかたでいきなり持ちだすのは、ちょっと悪戯が過ぎましたか」
「しかし、このワトスンならよく知ってますが、ぼくはなにかにつけて、芝居がかったおまけをつけずにはいられない性分でね」
「この事件でなによりむずかしかったのは、あまりにも証拠がありすぎるということでした。そのため、肝心な点が、がらくた同然の筋ちがいなものに埋もれ、隠されてしまっている」
「示された多くの事実のうちから、われわれはまず本質的と思えるものを抜き出し、しかるのちにそれをつなぎあわせて、ひとつながりの筋の通ったものに再構築する必要があった。そして再構築した結果がこの、じつに驚くべき出来事の連鎖だったわけです」
最期の事件
「いいかいワトスン、きみはぼくという人間をよく知ってるから、ぼくが神経質な男なんかじゃぜんぜんないことぐらい承知してるだろう」
「だが反面、危険が身に迫っているのに、それを顧みないというのは、勇気じゃなくて蛮勇、ただの愚か者にすぎない」
「その男はロンドンをわがもの顔に支配しているのに彼のことを聞いたことのあるものは、だれひとりいない。彼を犯罪界における最高峰たらしめているのは、まさにその点なのさ」
「ぼくはね、ワトスン、あの男を打ち負かし、社会から排除することができたら、そのときこそがわが職業生活の頂点となるだろうし、以後は安んじてもうすこし平穏な生活にひきこもれる、そう思ってもいるんだ」
(あの男とはモリアーティー教授のこと)
「あのねえワトスン、あの男はぼくと知的に同水準にある、そう言っただろう。その意味がまだよくわかっていないようだな」
「かりにぼくが追う側だったら、この程度の障害であきらめてしまうなんて、きみだってまさか思やしないだろう? それじゃあんまりあいつを見くびりすぎてるというもんだ」
バスカヴィル家の犬
「あいにくだけど、ワトスン、さっききみの出した結論、あれはほとんどまちがってる」
「いま、きみは僕を刺激してくれると言ったけど、あれはざっくばらんに言えば、きみの思いちがいに注目することで、ぼくが正しい結論に導かれることがままあると、そういう意味なのさ」
「ほう、そりゃ聞き捨てならない! ではそのトップという名誉はだれに冠せられるのか、参考までに聞かせてもらえますか?」
「では、そのベルティヨン氏に相談なさるのがいいのではありませんか?」
「まあぼくとしては、これまでは調査の範囲を現実世界に限定してきた。自分なりに悪と取り組んできたことは事実だが、それでも相手が<悪魔>そのものとなると、ちと荷が勝ちすぎる」
「それにしても、足跡が現実世界のものだってことは、きみも認めないわけにはいかないでしょう?」
「世のなかってのはね、わかりきってることだらけなのさ。だれひとりそれについて、多少なりとまともに考えてみたことがないというだけのことでね」
「いや、さにあらず──それよりはむしろ、さまざまな可能性を比較検討して、そのうちからもっとも理にかなったものを選びだそうとする段階、そう言ってほしいですね」
「そのとおりです。うわべはいかにばかげた出来事に見えてもね」
「あてにしていた糸筋のうち、これで二本が切れちまったよ、ワトスン」
「もっともぼくとしては、打つ手打つ手がすべて空振りに終わったとき、かえってやる気が出てくるんだけどね」
「ぼくとしてきみに望みたいのはね、ワトスン、たんに事実をできるだけ克明に記録して、ぼくに報告してくれること。それらを分析し、解釈を加えるほうは、ぼくにまかせてくれ」
「肝心なのは、なにがあったかを知ることじゃなく、それを証明することなんだ」
「聖書をもじって言えば、”あすの悪はあす一日にて足れり”ということになるだろうが、できることなら、あすという一日が暮れないうちに、究極の勝利を手中におさめてしまいたいものだよ」
「ほら、わかったろう?」
「ぼくの目は、描かれた顔だけを見て、ほかの飾りは見ないように訓練されているからね。変装を見破るのは、犯罪捜査にかかわるものの第一の資質なんだよ」
シャーロック・ホームズの復活
空屋の冒険
「仕事こそが悲しみへのまたとない解毒薬だよ、ワトスン。そしてその仕事が今夜、ぼくらふたりを待っている」
「首尾よく解決に導ければ、そのこと自体がこの地上に生きたひとりの男の人生に、生きたあかしを与えてくれるというほどの大仕事なんだ」
「シャーロック・ホームズ氏もいま一度、わがロンドンの複雑な暮らしが生みだすあまたの興味ぶかい小事件を前に、心おきなくそれらの探究にふけることができるというわけだよ」
ノーウッドの建築業者
「しかしぼくから見ると、この事件にはまだはっきりしない点がないでもないんだ。それがね、レストレード君、ぼくに言わせれば、ちとはっきりしすぎてるのさ」
「言っとくけどね、レストレード君、ぼくのやることには何事によらず、必ずれっきとした理由があるのさ」
踊る人形
「人間の考えだしたものなら、ほかの人間が仕組みを見破ることだってありうるさ」
プライアリー・スクール
「ありえないとは言い得て妙だね。たしかにありえないんだ、ぼくの話したとおりなら。したがって、この推論はどこかまちがっているに相違ない」
「ぼくはかように考えます。ある犯罪に手を染めたものは、その犯罪から派生したべつの犯罪にたいしても、道義的責任を負うものである、と」
「これはぼくがこのたび北部地方でお目にかかった、二番めに興味ぶかいものです」
「ぼくは貧乏人でして」
ブラック・ピーター
「いいかいホプキンズ、ぼくはずいぶんたくさんの犯罪調査を手がけてきたが、それでも、宙を飛ぶ生き物がやったという犯罪には、ついぞお目にかかったことがないよ」
「犯人が二本脚で動く生き物であるかぎり、必ずやなんらかの痕跡を残しているはずなんだ」
「いつの場合も、べつの可能性というものを考慮に入れて、それへの備えをしておく。これぞ犯罪捜査の常道であり、その第一歩でもあるんだがね」
金縁の鼻眼鏡
「なに、ぼくの推理なんて、いたって単純なものだよ。そもそも、眼鏡以上に推理の助けになってくれるものなんて、見つけるのがむずかしいくらいなんだが、この眼鏡なんか、その点ではとくにきわだっている」
「こう見えてもぼくは、推理という連鎖の環をひとつひとつ入念に鋳造し、鍛えあげてきたつもりでして、その鎖の強度については自信があります」
スリークォーターの失踪
「ひとりの人間が消息を絶ったなら、行方をつきとめるのがぼくの仕事ですが、いったんつきとめてしまったら、ぼくとしてはその件は終わりです。さらに、そこに犯罪がからんでいるのでないかぎり、それを表沙汰にするのもぼくは好みません」
アビー荘園
「たんなる気まぐれとしか思えないものにきみを巻きこんで申し訳ないんだが、しかしねワトスン、ぼくはどうあってもこの事件を、ああやってかたづいた、そのままのかたちでほうっておくことができないんだ」
「まさしく、ぼくの考えていたとおりだ。いまの話が一言一句、真実に相違ないことはわかっている。なぜなら、きみの口からはぼくの知らないことはほとんど出なかったからね」
第二の血痕
「当方にもまた当方なりの外交上の秘密というものがありまして」
恐怖の谷
「それがなにより貴重だったのは、その情報が犯罪への報復のためというよりは、むしろ犯罪を予知し、それを予防するためにこそ役だったという点なんだ」
「実体はなにもない。すべては心のやましさのなせるわざ。自分の行為を裏切りだと自覚しているから、相手の目のなかに、非難の色を読みとってしまうというわけだ」
「だったら、いくらかその範囲をせばめられないだろうか。じっとこの一点に精神力を集中してゆくと、これがあながち絶対不可侵の壁というわけでもないのがわかってくる」
「ぼくはいつの場合も信義を重んじる男だからね。はじめに先方から連絡してきたとき、今後ともきみの身元をつきとめようとすることはしない、そう約束したんだ」
「探偵にとっては、およそどんな知識でも、有用でないということはないんだ」
「ぼくが事件にかかわる目的はたったひとつ、正義を成し遂げ、警察の仕事を助けること、それに尽きる」
「あらためて言うが、これがたんなる想像にすぎないことは認める。とはいえ、想像から真実が導きだされることだって、これまでにもたびたびあったことなんだ」
「われわれの職業ってのはね、マック君、いたって単調で、ぱっとしないものだ。ときには派手な演出をして、手柄を誇示することでもしないかぎり、やっていられたものじゃないよ」
シャーロック・ホームズ最後の挨拶
ウィステリア荘
「法律が手を出せないのであれば、こっちが体を張って、思いきった手に出るしかないのさ」
ボール箱
「漠然としてるどころか、ぼくから見れば、これほど歴然とした事件はないよ」
「きみも医学者として先刻ご承知のことだろうが、ねえワトスン、じつは人体のうちで耳以上に種々さまざまな形を持つ部分はない。耳には原則としてひとりひとり特徴があり、それぞれに他人の耳とははっきり異なっている」
「人間の理性はいつの場合も、それへの真の解答からひどく遠いところにしかないのさ」
赤い輪
「なんの得があるか──まあそうだね。いってみれば、芸術のための芸術ってとこかな」
「そうさ、勉強に終わりはないんだ。学習することの連続で、しかも、最後の最後に学ぶものこそ、いちばん大事なことだと相場が決まっている」
「その意味でも、今回のこれ、学ぶことの多い事件だよ。金も、名誉もかかっちゃいないけど、それでも解決してみたくなるなにかがある」
ブルース=パーティントン設計書
「思うに、このぼくが犯罪者でないのは、この社会にとってはさいわいだったんじゃないのか?」
「ぼくはね、ゲームそのものを楽しむためにゲームをするだけさ」
レイディー・フランシス・カーファクスの失踪
「それにしても、珍しく徹底した調査をやってくれたものだよ、ワトスン。なにしろ、きみのやらなかったへまを見つけだすほうがむずかしいくらいだからね」
「ぼくの行動に”たぶん”はない。実際に、もっとましな結果を得てるんだ」
悪魔の足
「それがぼくの流儀だからだよ、ワトスン。警察当局の捜査を邪魔することはけっしてしないんだ」
「ぼくはねえ、ワトスン、あいにく女性を愛したことはない」
「しかし、もしも愛した経験があり、その女性がああいった最期を遂げたとしたら、やっぱりあの法の埒外に立つライオンハンター氏とおなじ挙に出ていたかもしれない。出なかった、なんてだれが言えるもんか」
シャーロック・ホームズ最後の挨拶
「引かれ者の小唄だな、もう聞き飽きた。かっての日々、いったい何度、聞かされたことか」
シャーロック・ホームズの事件簿
高名の依頼人
「お言葉ですが、ぼくのおひきうけする事件では、謎は一方の側にだけあればじゅうぶんです。それが両方の側にあっては、事は混乱をきたすだけ。というわけですから、せっかくですがサー・ジェームズ、この件はお断りするしかありませんね」
「わかるもんか。女性の感情、女性の心、そいつはつねに男にとっては解きがたい謎さ」
「殺人でさえも大目に見、犯人の釈明を聞き入れることがあるかと思えば、もっとちっぽけな、けちな犯罪に腹をたてるってこともありうる」
「忠実な友人にして、侠気ある紳士さ。それでいいじゃないか、さしあたっては。いや、ぼくらにとっては、永久にそれでじゅうぶんだよ」
マザリンの宝石
「ぼくは頭脳人間だからね、ワトスン。ほかはただのつけたしだよ」
三破風館
「ごろつきを雇ってぼくを脅かせば、怖れて手をひくと思っておいでのところが、ですよ。危険を恐れてひきさがっていては、ぼくのような商売は成りたちません」
サセックスの吸血鬼
「世のなかは広いんだ。幽霊まで相手にしちゃいられないよ」
「何事も単刀直入がいちばんです」
「はじめに頭のなかで組みたてたその推論が、それぞれ独立した一連の出来事によってひとつひとつ裏づけられてゆくと、それまで主観的な推論でしかなかったものが、やがて客観的な事実へと変容する」
「そこでようやく自信を得て、ゴールに到達したと言いきれるわけです」
ソア橋の怪事件
「ぼくの調査料は、一定の基準にもとづいています。それを変えることはありません。ただし、場合によっては、まったく申し受けないこともありますがね」
「せっかくですが、ギブスンさん、べつに人気をあおってもらおうとも思いませんので。意外に思われるかもしれませんが、むしろぼくは、名前が出ないほうが動きやすい」
「それに、ぼくが興味をそそられるのは、あくまでも事件そのものでしてね」
「ぼくにそういう捨て台詞を吐いていったひとだって、これまでに何人もいましたがね。見てのとおり、まだぴんぴんしています」
「無縁か、そうでないか、それを決めるのはぼくの役目です。そうでしょう?」
「真実ですよ」
「こういう捜査では、あらゆる事実に一貫性があるかどうかを見なくちゃいけない。首尾一貫しないところがあれば、そこに欺瞞があると疑ってかかる必要があるんだ」
這う男
「きみはあいかわらずだね、ワトスン!」
「もっともちっぽけに見える事柄こそが、なにより重要な問題を左右するってこと、これがきみにはいまもわかっていない」
「ひとは<自然>を征服しようとして、かえってしっぺがえしを食らうものなんですね」
覆面の下宿人
「人間はひとりで生きているのではありませんよ。自分の命だからといって、それをもてあそぶことは許されません」
隠退した絵の具屋
「ワトスン、きみはこれをわれわれの事件簿に入れておきたまえ。いつの日か、真実を語るときもあるだろう」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。