「無人島に生きる十六人(須川邦彦)」の名言・台詞をまとめていきます。
無人島に生きる十六人
1
いよいよ水がなくなったら、この島々にたくさんいる、海がめの水を飲もう。海がめは、腹のなかに、一リットルから二リットルぐらいの、清水を持っているのだ。
まったく、意外であった。そして、腹が立った。しかし、君らも、外国へ行く人だ、将来、これににたことに出あうだろうが、こんな時、おこったら負けだ。話せばわかることなのだ。
世界中の海員の親友は、酒である。外国人は、みんなそう信じていた。ところが、龍睡丸の連中が、酒と絶交している事実を見せていたのだ。外国人は、このことに、まったくびっくりしてしまったのである。
「島のお墓へ、そなえたのだよ」「鳥がとっても、心は通るさ」
「だれだって、おしまいはお墓だよ。あたりまえのことだ」
うねりは、人間のよわさをあざ笑うように、船をゆすぶっている。こういうときの船長の苦心は、経験しない人には、いくら説明してもわかるまい。
すべてが力を合わせて、船をゆすぶるのだ。ことばでいえば、
──おどりくるった波が、船を猛烈に動かす──
──怒涛が、船をもみくちゃにする──
まあ、こんなものだが、じっさいはどうして、そんなものじゃない。
「こんな場合の覚悟は、日ごろから、じゅうぶんにできているはずだ」
「これからさき、五年、十年の無人島生活に必要だとおもう品々を、めいめいで、なんでも集めておけ」
大しけのときなど、よく船から油を流す。それは、油が海面にひろがると、気ちがいのようにさわぎたっていた波も、おとなしくすがたをかえるのである。
「これから島へ行って、愉快にくらそう。できるだけ勉強しよう。きっとあとで、おもしろい思い出になるだろう。みんなはりきって、おおいにやろう。かねていっているとおり、いつでも、先の希望を見つめているように。日本の海員には、絶望ということは、ないのだ」
「ながい間、生死をともにして、波風をしのいできた龍睡丸。おまえを見すてて行くのも、十六人はお国のために、生きなければならないからだ。不人情な人たちと思うかもしれないが、われわれの心も察してくれ。おまえだって、りっぱなさいごだ。犬死ではない」
「さらば、わかれよう──これが見おさめか、さらば──」
「はっはっ、つえじゃないよ。おわんだってそうだ。こんなものとみんな思うだろう」
「だが、つまらないと思うものが、いざとなると、ほんとに役に立つのだ。それが、世の中だ。わかい者にゃ、わからないよ」
2
「大いそぎで、蒸溜水つくりにかかってくれ、飲む水がないと、井戸がほれない」
飲める水が出るまでは、島中、蜂の巣のようにあなをあけても、井戸をほろう。しんけんである。十六人の、命にかかわる井戸だ。
「島生活は、きょうからはじまるのだ。はじめがいちばんたいせつだから、しっかり約束しておきたい。
一つ、島で手にはいるもので、くらして行く。
二つ、できない相談をいわないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。
四つ、愉快な生活を心がけること。
さしあたって、この四つを、かたくまもろう」
「いままでに、無人島に流れついた船の人たちに、いろいろ不幸なことが起って、そのまま島の鬼となって、死んで行ったりしたのは、たいがい、じぶんはもう、生まれ故郷には帰れない、と絶望してしまったのが、原因であった」
私は、このときから、どんなことがあっても、おこらないこと、そして、しかったり、こごとをいったりしないことにきめた。みんなが、いつでも気もちよくしているためには、こごとは、じゃまになると思ったからである。
「経験のある者だけに、わかることです。船長に、そんなにいっていただいて、うれしいです」
われわれが、この無人島にいた間、さびしかったろう、たいくつしたろう、と思う人もあるだろう。どうして、どうして、そんなことはなかった。
ものごとは、まったく考えかた一つだ。はてしもない海と、高い空にとりかこまれた、けし粒のような小島の生活も、心のもちかたで、愉快にもなり、また心細くもなるのだ。
「一人のすることが、十六人に関係しているのだ。十六人は一人であり、一人は十六人である」
3
「インキよ、何年、波風にさらされても消えるな。──文字よ、いつまでも、はっきりしていてくれ。人に読まれるまでは……」
「心配することはない、昔のことだ。こんなことは、助かったものと、きめておけばいいのだ」
「毒ではないことが、はっきりするまで、たべてはいけない」
じつのところ、だれ一人、アザラシを殺したくはないのだ。しかし、人間の命にはかえられない。
「えさをとりあって、けんかばかりしている鳥が、ああやって、ちえと力を出しあって、なかまをすくうのだ」
「一人一人の、力はよわい。ちえもたりない。しかし、一人一人のま心としんけんな努力とを、十六集めた一かたまりは、ほんとに強い、はかり知れない底力のあるものだった」
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