「伊豆の踊子(川端康成)」の名言・台詞をまとめていきます。
伊豆の踊子
一
道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨足が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。
私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけていた。一人伊豆の旅にでてから四日目のことだった。(私、本作の書き出し)
踊子たちが傍にいなくなると、かえって私の空想は解き放たれたように生き生きと踊り始めた。(私)
「あんな者、どこで泊るやらわかるものでございますか、旦那様。お客があればあり次第、どこにだって泊るんでございますよ。今夜の宿のあてなんぞございますものか」(茶屋の婆さん)
それならば、踊子を今夜は私の部屋に泊らせるのだ。(私)
二
「それは、それは。旅は道連れ、世は情け。私たちのようなつまらない者でも、ご退屈しのぎにはなりますよ」(40女)
(宴席では)やがて、皆が追っかけっこをしているのか、踊り回っているのか、乱れた足音がしばらく続いた。そしてぴたと静まり返ってしまった。
私は眼を光らせた。この静けさが何であるかを闇を通して見ようとした。踊子の今夜が汚れるのであろうかと悩ましかった。(私)
三
「この土地の人なんですよ。土地の人はばか騒ぎするばかりで、どうもおもしろくありません」(男)
四
この美しく光る黒眼がちの大きい眼は踊子のいちばん美しい持ちものだった。二重瞼の線が言いようなく綺麗だった。それから彼女は花のように笑うのだった。
花のように笑うと言う言葉が彼女にはほんとうだった。(私)
「ああ、お月さま。──明日は下田、嬉しいな。赤ん坊の四十九日をして、おっかさんに櫛を買って貰って、それからいろんなことがありますのよ。活動へ連れて行ってくださいましね」(薫、踊子)
五
「ほんとにいい人ね。いい人はいいね」(踊子)
六
窓閾に肘を突いて、いつまでも夜の町を眺めていた。暗い町だった。遠くから絶えず微かに太鼓の音が聞こえて来るような気がした。わけもなく涙がぽたぽた落ちた。(私)
七
踊子はさようならを言おうとしたが、それもよして、もう一ぺんただうなずいて見せた。
ずっと遠ざかってから踊子が白いものを振り始めた。(私)
汽船が下田の海を出て伊豆半島の南端がうしろに消えて行くまで、私は欄干に凭れて沖の大島を一心に眺めていた。踊子に別れたのは遠い昔であるような気持だった。(私)
「何かご不幸でもおありになったのですか」(少年)
「いいえ、今人と別れて来たんです」(私)
私は涙を出まかせにしていた。頭が澄んだ水になってしまっていて、それがぽろぽろ零れ、その後には何も残らないような甘い快さだった。(私)
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