「わたしを離さないで(カズオ・イシグロ)」の名言・台詞をまとめていきます。
わたしを離さないで
第一部 第一章
あの人の介護をしながら、わたしは自分の幸運を思いました。わたしたちが、いかに幸せだったかをしみじみ噛み締めました。
あれは怒って追いかけようとしたのでしょうか。取り残されて慌てただけなのでしょうか。
「ああいう意地悪はちょっと残酷物語よね」
「でも、結局は自分が悪いのかも。もうちょっと抑えられれば、放っておいてもらえるのに」
第二章
「真剣なだけに、かえって笑えるの」
「絵を描きたくなければ描かなくていい──先生はそう言った。工作したくなければしなくていい。ちっとも悪いことじゃない。そう言ってくれた」
第三章
マダムはわたしたちを恐れていました。蜘蛛嫌いな人が蜘蛛を恐れるように恐れていました。そして、その衝撃を受け止める心の準備が、わたしたちにはありませんでした。
教えはどこかに潜み、わたしの一部となって、ああいう瞬間がやってくるのをじっと待っていたのでしょう。
第六章
「たぶん、マダムは悪い人じゃないんだ。気味は悪いけどね」
「でも、そんな秘密を必要としているということ自体が、当時のわたしたちには、周囲の期待を裏切ることで、いけないことのように感じられていました」
第七章
「これから大人になっていきますが、あなた方に老年はありません」
「あなた方は一つの目的のためにこの世に産み出されていて、将来は決定済みです。ですから、無益な空想はもうやめなければなりません」
「みっともない人生にしないため、自分が何者で、先に何が待っているかを知っておいてください」
「教わっているようで、教わっていない」とは、こういうことだったのかもしれません。
同じ避けるのでも、幼かった頃とは意味合いが違います。もう「何となく」話しづらいのではなく、重く、深刻な問題であるとはっきり認識し、それゆえの忌避だったと思います。
第二部 第十章
「真似するような価値のないことよ」
「外の人たちが生活の中で普通にやってることだって思っているんなら、それは違うわ」
第十一章
「あなたは違ったわね。宝物を持ってること、ちっとも恥ずかしがらなかった。そのまま大切にしつづけたのを覚えてる。わたしもそうすればよかった」
第十二章
嘘をついたというのではなく、事実と違うことをほのめかしたり、あえて否定しなかったりという感じでしょうか。
第十四章
「みんなわかってるんでしょ? だったら、現実を見なくちゃ」
第十五章
「わからんな」
「けど、まだ時間がある。おれたちは、まだ、そんなに切羽詰まってるわけじゃない」
第十六章
目の前でぐっと抱き締めてやることは? 何年も経ってからの後知恵です。
それができていれば、百万言を費やしても悪化するしかなかった事態が、一発で解決していたのかもしれません。
第十七章
「わたしね、思うのよ。カップルのことって、外で見てるほど本人たちにははっきり見えてないんじゃないかしら」
そして、ある日、気がつくと、わたしは全員にさようならを言っていました。
第三部 第十八章
でも、少なくとも、できることはすべてやったという思いがあれば、物事の判断にさほどバランスを欠くことはありません。
二人とも、極力、昔の話を避けました。思い出すのは危険だと感じていたのかもしれません。
第十九章
結局、大した問題はありませんでした。肉体より自信の問題だったのだと思います。
「どうやっても許してもらえるとは思わないし、許される理由がないとも思う。でも、やはり許してほしい。お願い」
わたしたち三人の関係はいつも壊れやすく、微妙です。わたしは緊張していました。でも、不快な緊張ではありませんでした。
あの瞬間に理解できたかどうかは、実は問題ではないのかもしれません。たぶん、最初から知っていたでしょう。
第二十一章
「つまり、作品は作者の内部をさらけ出す」
「やりすぎでしょうか」
第二十二章
「噂は噂にすぎませんでした。これは、はっきりさせておいたほうがいいでしょう。実体のないお伽噺です。ずっとそうでした」
「でも、一瞬たりとも現実を見失うことはありませんでした」
「すべてが順調のときでさえ、これがどんなに困難な戦いであるかを忘れたことはありませんでした」
人々は信じた、というか、まあ、信じたがったわけです。
「そういうものはありません。あなたの人生は、決められたとおりに終わることになります」
「追い風か、逆風か。先生にはそれだけのことかもしれません」
「でも、そこに生まれたわたしたちには人生の全部です」
「わたし自身に悲しみはありませんでしたけど、いま振り返ると、確かに少し悲しくなってきました」
「新しい世界が足早にやってくる。科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある」
第二十三章
「たわごともいいとこよ。噂、しようもない噂。話し合う価値もないわ」
「きみは優秀だ。君が君じゃなかったら、おれにも完璧な介護人だったんだけどな」
短時間で満足な結末まで行き着けない話題を取り上げることには、どちらも消極的でした。あの日のおしゃべりが、いまひとつ物足りなかったのはそのせいでしょう。
わたしは一度だけ自分に空想を許しました。
空想はそれ以上進みませんでした。わたしが進むことを禁じました。
最後まで読んで頂きありがとうございました。