「雪国(川端康成)」の名言・台詞をまとめていきます。
雪国
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
悲しいほど美しい声であった。高い響きのまま夜の雪から木魂して来そうだった。
それゆえ島村は悲しいを見ているというつらさはなくて、
夢のからくりを眺めているような思いだった。
不思議な鏡のなかのことだったからでもあろう。
登場人物と背景とはなんのかかわりもないのだった。
不思議と思わぬ自分を不思議と思ったくらいのものであった。
「こいつが一番よく君を覚えていたよ」
女の印象は不思議なくらい清潔であった。足指の裏の窪みまできれいであろうと思われた。
「友だちだと思ってるんだ。友だちにしときたいから、君は口説かないんだよ」
「そういうことがもしあったら、明日はもう君の顔を見るのもいやになるかもしれん」
「私なんかまだ子供ですけれど、いろんな人の話を聞いてみても、なんとなく好きで」
「その時は好きだとも言わなかった人の方が、いつまでもなつかしいのね」
「僕は思いちがいしてたんだな。山から下りて来て君を初めて見たもんだから」
「ここの芸者はきれいなんだろうと、うっかり考えてたらしい」
「あんた笑ってるわね。私を笑ってるわね」
「心の底で笑ってるでしょう。今笑ってなくっても、きっと後で笑うわ」
「君はあの時、ああ言ってたけれども、あれはやっぱり嘘だよ」
「そうでなければ、誰が年の暮にこんな寒いところへ来るもんか。後でも笑やしなかったよ」
その思いに溺れたなら、島村自ら生きていることも徒労であるという、
遠い感傷に落とされて行くのであろう。
「あんた、そんなこと言うのがよくないのよ」
「私の好きなようにするのを、死んで行く人がどうして止められるの?」
つらいとは、旅の人に深塡りしてゆきそうな心細さであろうか。
こちら側にはまだ雪がなかった。
「だってそうじゃないの。好かれたって、なんですか」
離れていてはとらえ難いものも、こうしてみると忽ちその親しみが還って来る。
無為徒食の彼には、用もないのに難儀して山を歩くなど徒労の見本のように思われるのだったが、それゆえにまた非現実的な魅力もあった。
「どうして? 生きた相手だと、思うようにはっきりも出来ないから」
「せめて死んだ人にははっきりしとくのよ」
「ううん、いいのよ。私達はどこへ行ったって働けるから」
彼女の真剣過ぎる素振りは、いつも異常な事件の真中にいるという風に見えるのだった。
「駒ちゃんは私が気ちがいになると言うんです」
そうして駒子がせつなく迫って来れば来るほど、
島村は自分が生きていないかのような苛責がつのった。
いわば自分のさびしさを見ながら、ただじっとたたずんでいるのだった。
「目玉が寒くて、涙が出るわ」
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