「コンビニ人間(村田沙耶香)」より名言・台詞をまとめていきます。
コンビニ人間
コンビニエンスストアは、音で満ちている。
全てが混ざり合い、「コンビニの音」になって、私の鼓膜にずっと触れている。(古倉恵子、以降無記入)
(本作書き出しの抜粋)
コンビニ店員として生まれる前のことは、どこかおぼろげで、鮮明には思いだせない。
必要なこと以外は喋らず、自分から行動しないようになった私を見て、大人はほっとしたようだった。
そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。
完璧なマニュアルがあって、「店員」になることはできても、マニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか、やはりさっぱりわからないままなのだった。
毎日働いているせいか、夢の中でもコンビニのレジを打っていることがよくある。
朝になれば、また私は店員になり、世界の歯車になれる。そのことだけが、私を正常な人間にしているのだった。
二人が感情豊かに会話をしているのを聞いてると、少し焦りが生まれる。私の身体の中に、怒りという感情はほとんどない。人が減って困ったなあと思うだけだ。
いつも回転し続ける、ゆるぎない正常な世界。私は、この光に満ちた箱の中の世界を信じている。
「プライベートな質問は、ぼやかして答えれば、向こうが勝手に解釈してくれるから」(麻美、恵子の妹)
そのほうが自分たちにとってわかりやすいからそういうことにしたい、と言われている気がした。
「でも、変な人って思われると、変じゃないって自分のことを思っている人から、根堀葉掘り聞かれるでしょう? その面倒を回避するには、言い訳があると便利だよ」
コンビニで働いていると、そこで働いているということを見下されることが、よくある。興味深いので私は見下している人の顔を見るのが、わりと好きだった。
「あの……修復されますよ?」
「正直、イライラしてたんで、人手不足でもいないほうがいいですよ」(泉、店員)
正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。
肉体労働は、身体を壊してしまうと「使えなく」なってしまう。いくら真面目でも、がんばっていても、身体が年を取ったら、私もこのコンビニでは使えない部品になるのかもしれない。
「つまり、皆の中にある『普通の人間』という架空の生き物を演じるんです」
「やっぱりいざとなると難しいですか? そうですよね、真っ向から世界と戦い、自由を獲得するために一生を捧げる方が、多分苦しみに対して誠実なのだと思います」
わたしはどこかで、変化を求めていた。それが悪い変化でもいい変化でも、膠着状態の今よりましなのではないかと思えた。
妹はなんだか勝手に話を作り上げて感動していた。
こんな簡単なことでいいならさっさと指示を出してくれれば遠回りせずに済んだのに、と思った。
「男女が同じ部屋にいると、事実はどうあれ、想像を広げて納得してくれるものなんだなと思いました」
「私も貧乏なので現金は無理ですが、餌を与えるんで、それを食べてもらえれば」
「あ、ごめんなさい。家に動物がいるのって初めてなので、ペットのような気がして」
18年間、辞めていく人を何人か見ていたが、あっという間にその隙間は埋まってしまう。
自分がいなくなった場所もあっという間に補完され、コンビニは明日からも同じように回転していくんだろうなと思う。
店員でなくなった自分がどうなるのか、私には想像もつかなかった。
「気が付いたんです。私は人間である以上にコンビニ店員なんです」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。