「超入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ(鈴木博毅)」の名言をまとめていきます。
超入門 失敗の本質
序章
ダーウィンの進化論のように、強い組織や大きな組織ではなく、変化に対応できる組織が生き残る時代へ。
日本軍の組織原理を無批判に導入した現代日本の組織一般が、平時的状況のもとでは有効かつ順調に機能しえたとしても、危機が生じたときは、大東亜戦争で日本軍が露呈した組織的欠陥を再び表面化させないという保証はない。
(「失敗の本質」より)
「失敗の本質」で描かれた日本組織の病根は、いまだ完治していないと皆さんも感じないでしょうか。
時代の転換点で日本軍は負けたのだ、という主旨の言葉で結論づけるのは簡単です。
大切なのは、貴重な教訓から私たちが「次の失敗」をどれほど上手く避けることができるか、具体策を引き出すことではないでしょうか。
第1章 01
一つだけはっきりしていることは、「戦略」が明確であれば目標達成を加速させる効果を生み、逆に曖昧ならば混乱と敗北を生み出すことです。
「失敗の本質」で指摘される日本軍の迷走から見えること。その一つは、「目標達成につながらない勝利」の存在です。
東南アジア、香港以降シンガポール、タイ、そしてインド国境のインパールまで進軍を行う日本軍は、その進軍を実現するために「勝利」を積み重ねたはずですが、それらの勝利は結局すべて無に帰することになったのです。
日本軍の努力の70%もが「目標達成につながらない勝利」に費やされたことになる。
大局的な戦略とは「目標達成につながる勝利」と「つながらない勝利」を選別し、「目標達成につながる勝利」を選ぶこと。
目標達成につながらない勝利のために、戦術をどれほど洗練させても、最終的な目標を達成することはできない。
02
戦略とは追いかける指標のことである。
勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である。性能面や価格で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながらない。
03
日本軍ならびに日本企業が歴史上証明してきたことは、必ずしも戦略が先になくとも勝利することができ、ビジネスにおいても成功することができるという驚くべき事実です。
これは日本軍にも通じる点ですが、「一点突破・全面展開」という流れを日本人と日本の組織が採用しがちなのは、戦略の定義という意味での論理が先にあるのではなく、体験的学習による察知で「成功する戦略(新指標)を発見している」構造だからでしょう。
日本人の文化の中で「戦略の定義」が不明確であることは、確実にデメリットを生んでいます。
「体験的学習」で一時的に勝利しても、成功要因を把握できないと、長期的には必ず敗北する。指標を理解していない勝利は継続できない。
04
現代ビジネスにおける競争には「同じ戦略で戦う」ことで勝てる戦場は、ほとんどない。
第2章 05
「兵法」の素養が日本人から消えたことは、大戦での情報謀略で日本軍が何度も欺かれてしまった理由の一つと言われますが、型の反復による洗練はそのまま活用されたのです。
驚異的な技能を持つ達人の養成に、日本軍はかなりの力を注ぎ、実際に戦果も挙げました。
しかし兵員練度の極限までの追求は、精神主義と混在することで、のちに日本軍の軍事技術・戦略の軽視にもつながったと「失敗の本質」で指摘されることになります。
米国側が「ゲームのルールを変えた」ことで、勝利につながる要素も変化したのです。
モノづくり大国として「高い生産性」と「高品質」を武器に世界市場を席巻した日本製品が、現在では製品単体の性能ではなく「ビジネスモデル戦略」で敗退しています。
06
日本軍は戦局を変える新技術を継続的に開発することができず、零戦が劣勢になったのちも、軽量であることにこだわりました。
その上、「精神主義」「過去に勝った技術の過信」など、技術への視点も変換できずに敗戦を迎えます。
零戦はすでに大空を去りましたが、現実でも「日本企業殺し」の手法は存在しており、私たち日本人は負けていながら気づいていないだけかもしれません。
「旧来優れた達人が頼っていた要素」を凌駕するために、ルールを変えてしまう戦略行動は、現代ビジネスシーンでも繰り返し行われ、現在の世界市場で日本企業の栄枯盛衰を左右する重大な要因となっているのです。
07
「現場の努力が足りない」という安易な結論は、直面する問題の全体像を上級指揮官が正しく把握していないことに本当の原因がある。
第3章 08
「鉄量を破るものは鉄量以外にない」
イノベーションの実現は、優位がある敵が持っている指標をまず見抜くことが必要であり、その指標を無効化する方法を探し、支配的だった指標を凌駕する新たな指標で戦うことで成し遂げられている。
09
天才的なひらめきだけでは、生涯に何度も成功を再現できない。
10
何を追いかけるべきか、勝利に必要な指標を見抜いていれば答えは明白だったのです。
第4章 11
現時点で不振にあえいでいる様子を見ると、過去の経営者の成功体験を「単なる形式」としてだけ伝承し、当時なぜ成功を収めることができたか、という「勝利の本質」がまったく組織内に伝承されていないことが、急失速の原因なのではないでしょうか。
勝利の本質を教育するのではなく、「型の伝承」のみを十数年にわたり教育した集団では、過去の方法が通用しないだけで大混乱に陥っても何の不思議もありません。
12
特定の業務、技術的スキルに関しては「型の伝承」は必要不可欠でしょう。しかし、「型の伝承」と「勝利の本質」は明確に区分されて、ともに伝えられなければいけない。
13
技術革新を可能にするブレークスルーは、日米どちらの科学者も懸命に探し当てようとしていたはずです。
しかし、全組織に浸透する意識があまりに違うために、日本の科学者には強い逆風が、アメリカの科学者には追い風が常に吹くことになったのです。
単なる型の伝承を組織内教育として何十年も行ってきた集団にとって、勝利の本質への議論の転換は、まさに自分の敵が登場したことに等しい脅威です。
このように「本質ではない型の伝承」によって、組織はイノベーションを敵対視する集団に劣化してしまう。
第5章 14
日本軍の上層部は現場の優秀な人間の意見を取り入れて戦略の立案に活かすという意図が見えません。
あなたが「知らない」という理由だけで、現場にある能力を蔑視してはいけない。優れた点を現場に見つけたら自主性・独立性を尊重し、最大・最高の成果を挙げさせる。
15
日本軍は、戦地から遠く離れた大本営の中で「新たな戦略」が生み出されると勘違いしており、組織内で権威が常に「新たな意見と指摘」を押し潰してしまいます。
16
「評価制度」は組織運営において、最大のインパクトを与えるイノベーションの一つです。
「優れた人材」を最適な場所に配置することは、戦場の勝敗に直結する最重要要素です。
できない理由を上手に説明しても、会社が勝てるようにならない。
第6章 17
机上の空論や、当初の想定、都合のいい思い込みは、最前線の厳然たる事実の前に簡単に打ち砕かれるでしょう。
米軍は兵器改善等において、常に最前線の声を重視しました。多くのトップが自ら足を運び、戦っている前線兵士とコミュニケーションを重ねたのです。
18
自己の権威や自尊心、プライドを守るために、目の前の事実や採用すべきアイデア、優れた意見を無視してしまうリーダー。
このような人物は、最終的には自ら組織全体を失敗へ導いている。
最悪のリーダーシップとは、インパール作戦のように「この人にもう、何を言っても無駄だ」と部下に思わせてしまうケースでしょう。
リーダーが認識できる限界を組織の限界としたことで、悲惨な敗北が生まれたのです。
「私自身が、組織の限界となっているのではないか」
19
強制的に押しつけられた勝利の条件が間違っていれば、最前線の日本兵がどれほど勇敢しても勝てません。
20
所属する人間を過度に保護する組織ほど、外部の環境変化や時代の転換点には脆弱である。
成果を挙げる集団となるためには「楽しくないこと」にあえて真正面から正対しなければいけないときがある。
「居心地の良さ」とは正反対の、成果を獲得するための緊張感、使命感、危機感を維持できる「不均衡を生み出す」組織が生き残る。
第7章 21
「空気の支配」により合理的な判断ができなくなる状態は、過去の日本軍にだけ存在し、私たち現代日本人はきちんと克服できたのでしょうか。
悪意を持って「空気の醸成を狙う」者が、大げさに振り回したテーマが、問題の全体像にとって何割程度の重要性を持つか、常に冷静に考えるべきでしょう。
22
多くの犠牲を払ったプロジェクトほど撤退が難しい。
集団の和を特に尊重する文化である日本では、集団の空気や関係性を重視するあまり、安全性や採算性よりも、関係者への個人的配慮を優先し、グループ・シンクの罠に陥るケースが多いようです。
(グループ・シンクとは「集団浅慮」のこと)
不都合な情報を封殺しても、問題自体が消えるわけではない。
23
日本軍は起こり得る可能性としてのリスクから目を背けて進軍した結果、残念ながら、作戦成功という最終目標までたどり着くことがついにできなかったのです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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