「銀河英雄伝説8~10巻(田中芳樹)」の名言・台詞をまとめていきます。
8巻 乱離篇
第一章 風は回廊へ
「ハイネセンが真に同盟人の敬慕に値する男なら、予の処置を是とするだろう。巨大な像など、まともな人間に耐えられるものではない」(ラインハルト・フォン・ローエングラム)
「ヤン・ウェンリーがいかに希謀を誇ろうとも、この期におよんで軍事上の選択肢はふたつしかありえない。進んで戦うか、退いて守るか、だ。彼がどう選択し、どう予をしとめようとするか、大いに興味がある」(ラインハルト)
「名将の器量が他の条件に規制されるとは気の毒なことだな」(ラインハルト)
「フロイライン、予が休息するとしたら、ヤン・ウェンリーに対する負債を、まず完済せねばならぬ。彼を屈伏させ、宇宙の統一をはたしてから、予にとってはすべてがはじまるのだ」(ラインハルト)
「陛下に無能者と呼ばれるのには、おれは耐えられる。だが卑劣漢と非難されては、今日まで生命がけで陛下におつかえしてきた意味がない」(フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト)
第二章 春の嵐
「おれとしては、何も悪いことをできなかったような甲斐性なしに、30歳になってもらいたくないね」(ワルター・フォン・シェーンコップ)
民主共和政治の建前──言論の自由のおかげである。政治上の建前というものは尊重されるべきであろう。
それは権力者の暴走を阻止する最大の武器であり、弱者の甲冑であるのだから。(ヤン・ウェンリー)
「皇帝ラインハルトは、私と戦うことを欲しているらしいよ。その期待を裏切るような所業をしたら、彼は私を永久に赦さないだろうな」(ヤン)
「運命というならまだしも、宿命というのは、じつに嫌なことばだね。二重の意味で人間を侮辱している」
「ひとつには、状況を分析する思考を停止させ、もうひとつには、人間の自由意志を価値の低いものとみなしてしまう」
「宿命の対決なんてないんだよ、ユリアン、どんな状況のなかにあっても結局は当人が選択したことだ」(ヤン)
「半数が味方になってくれたら大したものさ」(ヤン)
「この世で一番、強い台詞さ。どんな正論も雄弁も、この一言にはかなわない」
「つまりな、『それがどうした』、というんだ」(ダスティ・アッテンボロー)
「伊達と酔狂でやってるんだ。いまさらまじめになっても帝国軍のまじめさにはかなわんよ。犬はかみつく、猫はひっかく、それぞれに適した喧嘩のやりかたがあるさ」(アッテンボロー)
狂信者に必要なものはありのままの事実ではなく、彼の好みの色に塗りたてた幻想である。(ド・ヴィリエ)
第三章 常勝と不敗と
「ヤン・ウェンリーも戦いを欲するか」(ラインハルト)
「ヤン・ウェンリーの真の偉大さは、正確な予測にあるのではなく、彼の予測の範囲においてのみ、敵に行動あるいは選択させる点にある」
「銀河帝国の歴戦の名将たちは、つねに彼によって彼の用意した舞台の上で踊らされたのである」(エルネスト・メックリンガー)
「罠ということは卿に教わるまでもない。おれが問題にしているのは、何を目的としての罠かということだ」(ビッテンフェルト)
「こちらは両艦隊あわせて三万隻。敵軍をことごとく葬って、なお一万隻はあまるではないか」(ビッテンフェルト)
「大軍に区々たる用兵など必要ない。攻勢あるのみ。ひたすら前進し、攻撃せよ」(アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト)
「世の中を甘く見ることさ」(オリビエ・ポプラン)
「見栄をはるのは、けっこうなことだ。最初は大きすぎる服でも、成長すれば身体にあうようになる。勇気も同じことだ」
「……と、人生相談係のポプラン氏は無責任にのたもうた。しょせん他人の人生である」(ポプラン)
「よし、行け、カリン、教えたことの62.4パーセントばかり実行すれば、お前さんは生き残れる」(ポプラン)
「わかった、形見をやる……」
「お前の生命だ。生きて皇帝にお目にかかれ。死ぬなよ、いいか……」(ファーレンハイト)
「勝利か死か、ですか、わが皇帝(マイン・カイザー)」(オスカー・フォン・ロイエンタール)
「ちがうな。勝利か死か、ではない。勝利か、より完全な勝利か、だ」(ラインハルト)
第四章 万華鏡
「元帥だの宇宙艦隊司令長官だのと顕職にまつりあげられている間に、おれも戦闘指揮の感覚がにぶったとみえる。味方がついてこれないような作戦をたてるとはな」(ウォルフガング・ミッターマイヤー)
「これだ、これでなくてはな」(ラインハルト)
「ああ、その指揮官は鉄壁ミュラーにちがいないよ」
「異名にふさわしく、主君を守ろうとしているのだ。彼を部下に持ったという一事だけで、皇帝ラインハルトの名は後世に伝えられるだろうな」(ヤン)
「つまりは、人は人にしたがうのであって、理念や制度にしたがうのではないということかな」(ヤン)
「前後、左右、上下、いずれの方角を見ても味方の艦影で埋まっている。にもかかわらず、わが軍が劣勢であるのはどういうわけだ」(フォルカー・アクセル・フォン・ビューロー)
「予はこれまで戦うにあたって、受け身となってよき結果を報われたことは一度もなかった。それを忘れたとき、軍神は予の怠惰を罰したもうた」
「今回、いまだ勝利をえられぬゆえんである」(ラインハルト)
「吾々は宇宙を征服しうるも、一個人を征服するあたわざるか」(ミッターマイヤー)
第五章 魔術師、還らず
「かっこうよく死ぬのは、ビュコック爺さんに先をこされてしまったからな。後追い心中をしても誰もほめちゃくれない。したたかに生き残っていい目を見なきゃ損さ」(アッテンボロー)
「ヤン・ウェンリーは宇宙のすべてを欲しているのではないと思います。あえて申しあげますが、譲歩が必要であるとすれば、それをなさる権利と責任は陛下のほうにおありです」(ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、通称:ヒルダ)
「キルヒアイスが諌めにきたのだ。キルヒアイスが言ったのだ、これ以上ヤン・ウェンリーと争うのはおよしください、と。あいつは死んでまでおれに意見する……」(ラインハルト)
「(人質の)使者として他に候補者なき場合は、臣がその任にあたりましょう」(パウル・フォン・オーベルシュタイン)
「作戦をたてるだけでは勝てない。それを完全に実行する能力が艦隊になくては、どうしようもない」
「ここで会談の申しいれを拒否して、短時日のうちに再戦することになっては自殺行為だよ」(ヤン)
「誰もが平和を望んでいた。自分たちの主導権下における平和を。共通の目的が、それぞれの勝利を要求したのである」(歴史家)
「予はヤン・ウェンリーに手を差しだすつもりだが、ひとたびそれを拒まれたときには、ふたたび握手を求めるつもりはない」(ラインハルト)
「(フォークは)秀才だったのですが、現実が彼のほうに歩みよってくれなかったのですな」
「方程式や公式で解決できる問題なら、手ぎわよくかたづけたにちがいありませんが、教本のない世界では生きられなかったらしい」(フョードル・パトリチェフ)
「よせよ、痛いじゃないかね」(パトリチェフ)
「ごめん、フレデリカ。ごめん、ユリアン。ごめん、みんな……」(ヤン)
第六章 祭りの後
「提督、イゼルローンへ帰りましょう。あそこがぼくたち皆の家ですから。家に帰りましょう……」(ユリアン・ミンツ)
「生きるということは、他人の死を見ることだ」(ヤン)
「戦争やテロリズムは何よりも、いい人間を無益に死なせるからこそ否定されねばならない」(ヤン)
あの人が言っていたのは、いつも正しかった。だけど、いくら正しいことばを残しても、当人が死んでしまったら何にもならないではないか!(ユリアン)
「きらいな奴に好かれようとは思わない。理解したくない人に理解される必要もない」(ヤン)
「なあ、ユリアン、もともとヤンの奴は順当にいけばお前さんより15年早く死ぬ予定になっていたんだ。だがなあ、ヤンはおれより6歳若かったんだぜ」
「おれがあいつを送らなきゃならないなんて、順序が逆じゃないか」(アレックス・キャゼルヌ)
「ユリアン、これはあなたの責任であり義務ですよ。あなたはヤンご夫妻の家族だったんですからね。あなた以外の誰が話すというの」
「もし話さなかったら、話したとき以上に後悔するわよ」(オルタンス・キャゼルヌ)
「あの人はね、こんな死にかたをする人じゃないのよ。あの人にはあの人らしい死にかたがあったのに」(フレデリカ・グリーンヒル)
……戦乱が一世紀以上も過去のことになった平和な時代、ひとりの老人が生きている。
かつては名声を有した軍人だったというが、それを実見した証人たちもすくなくなり、当人も誇らしげに武勲を語ることはない。
若い家族たちに七割の愛情と三割の粗略さで遇されながら、年金生活を送っている。
サンルームに大きな揺り椅子を置いて、食事に呼ばれないかぎり、まるで椅子の一部になってしまったように静かに本を読んでいる。毎日毎日、時がとまったように。
ある日、外で遊んでいた孫娘が、サンルームの入口からなかにボールを放りこんでしまう。ボールは老人の足もとに転々とする。
いつもは緩慢な動作でボールをひろってくれる祖父が、孫の声を無視したように動かない。
駆けよってボールをひろいあげた孫娘は、下方から祖父の顔を覗きこんで苦情を言いかけ、説明しがたい何かを感じる。
「お祖父ちゃん……?」返答はなく、老人は眠りに落ちたような顔を、陽光が斜めから照らしている。孫娘はボールを抱いたまま、居間へ駆けこんで大声で報告する。
「パパ、ママ、お祖父ちゃんが変なの!」その声が遠ざかっていくなかで、老人はなお揺り椅子にすわっている。永遠の静謐さが老人の顔を潮のように満たしはじめる……。
そんな死にかたこそがヤン・ウェンリーにはふさわしい。(フレデリカ)
「人間は主義だの思想だののためには戦わないんだよ! 主義や思想を体現した人のために戦うんだ。革命のために戦うのではなくて、革命家のために戦うんだ」
「おれたちは、どのみち死せるヤン提督を奉じて戦うことになるが、その場合でも、この世に提督の代理をつとめる人間が必要だ」(アッテンボロー)
「ユリアン、いいか、政治における形式や法制というものは、二代めから拘束力を持つのだぜ。初代はそれを定める立場にある」(キャゼルヌ)
「あたりまえよ、ユリアン、ヤン・ウェンリーみたいなことは誰にもできないわ」
「いえ、(才能ではなく)個性の差よ、ユリアン。あなたはあなたにしかできないことをやればいい。ヤン・ウェンリーの模倣をすることはないわ」
「歴史上にヤン・ウェンリーがただひとりしかいないのと同様、ユリアン・ミンツもただひとりなのだから」(フレデリカ)
「なぜユリアンのような亜麻色の髪の孺子に兵権をゆだねるかって? おれたちにとって必要なのは過去の日記ではなくて未来のカレンダーだからさ」(アッテンボロー)
「いま私が離脱を公表すれば、動揺している連中は私のもとに集まってくる。ムライのような幹部でさえ離脱するのだから、という自己正当化ができるからな」(ムライ)
「私がいないほうが、貴官らにとってはよかろう。羽を伸ばすことができて」(ムライ)
「否定はしませんよ。ですが、酒を飲む楽しみの半分は禁酒令を破ることにあるのでね」(アッテンボロー)
「世間はきっとあんたのことを悪く言いますよ。損な役まわりをなさるものだ」(アッテンボロー)
「なに、私は耐えるだけですむ。君らと同行する苦労にくらべればささやかなものさ」(ムライ)
「あなたがたが出て行かれるのを、ぼくは制めはしません。ですから、あなたがたも気持よく出発なさってください。何も今日までのあなたがた自身を否定なさる必要はないでしょう」(ユリアン)
第七章 失意の凱旋
「あなたから凶報を聞いたことは幾度もあるが、今回はきわめつけだ。それほど予を失望させる権利が、あなたにあるのか?」
「誰も彼も、敵も味方も、皆、予をおいて行ってしまう! なぜ予のために生きつづけないのか!」(ラインハルト)
「予には敵が必要なのだ」(ラインハルト)
「わが皇帝よ、あなたは私に過分な地位と権力を与えてくださるが、何を望んでおられるのか。私が単に忠実で有益な覇道の歯車であれば、それでいいのか」(ロイエンタール)
「卿にはわかっているはずだ、ミッターマイヤー。昨日正しかった戦略が今日も正しいとはかぎらぬ」(ロイエンタール)
「ひとりの貴族が死んで一万人の平民が救われるなら、それが予にとっての正義というものだ。餓死するのがいやなら働け。平民たちは500年間そうしてきたのだからな」(ラインハルト)
「もし予が死んで血族なきときは、予の臣下でも他の何者でもよい、実力ある者が自らを帝位にでも王位にでもつけばよかろう。もともと予はそう思っていた」
「予が全宇宙を征服したからといって、予の子孫が実力も名望もなくそれを継承すべき理由はあるまい」(ラインハルト)
第八章 遷都令
「あいつは小物だ。その証拠に、実物より大きく映る鏡を見せれば喜ぶ。私は奴のほしがる鏡をしめしてやっただけさ」(アドリアン・ルビンスキー)
「虫が食った柱だからといって切り倒せば、家そのものが崩壊してしまうこともあるだろう。大と小とを問わず、ことごとく危険人物なるものを粛清し終えた後に、何が残るか」
「軍務尚書自身が倒れた柱の下に敷かれるかもしれんな」(アントン・フェルナー)
第九章 八月の新政府
「どのみち、急速に事態が変わるとは思っていません。国父アーレ・ハイネセンの長征一万光年は50年がかりでした。それぐらいの歳月は覚悟しておきましょうよ」(ユリアン)
「何と言われてもかまいませんよ。成功さえすればね」(ユリアン)
「戦略は正しいから勝つのだが、戦術は勝つから正しいのだ。だから、まっとうな頭脳を持った軍人なら、戦術的勝利によって戦略的劣勢を挽回しようとは思わない」
「いや、正確には、そういった要素を計算に入れて戦争を始めたりはしないだろうよ」(ヤン)
「戦術は戦略に従属し、戦略は政治に、政治は経済に従属するというわけさ」(ヤン)
「ひがんではいけませんな、アッテンボロー提督。女に関しては1の下は0。コンマいくつなんてのはないんですから」(ポプラン)
9巻 回天篇
第一章 辺境にて
「じつをいうとね、ヤン提督が生きてらしたころは、それほど偉大な人だとも思ってなかったのよ。でも、亡くなってから、すこしだけわかったような気がする」
「提督の息吹を、わたしたちは直接、感じているけど、その息吹はきっと時がたつほど大きくなって、歴史を吹きぬけていくんでしょうね……」(カーテローゼ・フォン・クロイツェル、通称:カリン)
「歴史とは、人類全体が共有する記憶のことだ、と思うんだよ、ユリアン。思いだすのもいやなことがあるだろうけど、無視したり忘れたりしてはいけないのじゃないかな」(ヤン)
「よく60万人以上も残ったものさ。物ずきの種はつきないものだ」(アッテンボロー)
「失われた生命は、けっして帰ってこない世界、それだけに、生命というものがかけがえのない存在である世界に、おれたちは生きているんだからな」(アッテンボロー)
「生きかえっていらっしゃい。自然の法則に反したって、一度だけなら、赦してあげる。そうなったら、今度は、わたしが死ぬまでは死なせてあげないから」(フレデリカ)
「自分がこれまで死なせてきた人間の数を考えると、ほんとうに怖いよ。一回死んだぐらいでは、償えないだろうね。世のなかって、けっこう不均衡にできているんだとう思う」(ヤン)
「わたしは、たしかにあなたを失いました。でも、最初からあなたがいなかったことに比べたら、わたしはずっと幸福です」
「あなたは何百万人もの人を殺したかもしれないけど、すくなくともわたしだけは幸福にしてくださったのよ」(フレデリカ)
「もう一度言ってみろ。暗殺された人間は、戦死した人間より格が下だとでもいうのか」(ユリアン)
「さて、この際、あんたのほうはわずかな想像力をはたらかせればいいのさ」
「あんたより年齢がずっと若くて、ずっと重い責任を負わされた相手を、口ぎたなくののしるような人間が、周囲の目に美しく見えるかどうか」(ポプラン)
「ヤン・ウェンリーの語調を借りれば、こういうことになるかな。歴史はどう語るか」
「ユリアン・ミンツはヤン・ウェンリーの弟子だった。ヤン・ウェンリーはユリアン・ミンツの師だった。さて、どちらになるものやら」(シェーンコップ)
「はっきりわかっているのは、これだけだ。おれたちは、全員そろって、あきらめが悪い人間だということさ」(キャゼルヌ)
「ヤン提督の生前はお祭りの準備にいそがしかった。死後は、残っていた宿題をかたづけるのに骨をおった」(アッテンボロー)
第二章 夏の終わりのバラ
「皇帝をお怨みするにはあたらぬ。ヴェスターラントに対する熱核攻撃を黙認するよう、皇帝に進言したのは私だ。卿は皇帝ではなく、私をねらうべきであったな」
「妨害する者もすくなく、ことは成就したであろうに」(オーベルシュタイン)
「陛下は、罪を犯されたとしても、その報いをすでに受けておいでだ、と、わたしは思います。そして、それを基調に、政治と社会を大きく改革なさいました」
「罪があり報いがあって、最後に成果が残ったのだ、と思います。どうかご自分を卑下なさいませんよう。改革によって救われた民衆はたしかに存在するのですから」(ヒルダ)
「異常な才能というものは、一方で、どこかそれに応じた欠落を要求するものらしい。ラインハルト陛下を見ていると、そう思う」
「まあ君主としては、逆の方向へ異常でないだけよいのだがね」(フランツ・フォン・マリーンドルフ)
人間は、自分より欲望の強い人間を理解することはできても、自分より欲望の弱い人間を理解することは至難であるから。
「偉人だの英雄だのの伝記を、子供たちに教えるなんて、愚劣なことだ。善良な人間に、異常者をみならえというも同じだからね」(ヤン)
第三章 鳴動
熱狂する群衆のなかで理性を堅持しえる者は、絶対的少数派である。
「侵略者の善政など、しょせん偽善にすぎぬ、か。そのとおりだな」(ロイエンタール)
「偉大な敵将と戦うのは武人の栄誉だが、民衆を弾圧するのは犬の仕事にすぎぬ」(ロイエンタール)
「ヤン・ウェンリー元帥、卿は中道に倒れて、あるいは幸福だったのではないか」
「平和な世の武人など、鎖につながれた番犬にすぎぬ。怠惰と無為のなかで、ゆっくりと腐敗していくだけではないか」(ロイエンタール)
「平和の無為に耐えうる者だけが、最終的な勝者たりうる」(ヤン)
「陰気で消極的なビッテンフェルト、女気なしのロイエンタール、饒舌なアイゼナッハ、浮気者のミッターマイヤー、無教養で粗野なメックリンガー、いたけだかなミュラー、皆、彼ららしくない」
「人それぞれ個性というものがある。ロイエンタールが法を犯したとか、相手をだましたとかいうならともかく、色恋ざたで一方だけを被告席に着かせるわけにもいくまい」(ラインハルト)
「100の興味が集まれば、事実のひとつぐらいにはなるだろうな。とくに、力のある者がそれを望めば、証拠など必要ない。卿らの憎む、いや、憎んだ専制政治では、とくにな」(ロイエンタール)
「ことばで伝わらないものが、たしかにある。だけど、それはことばを使いつくした人だけが言えることだ」(ヤン)
「正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に、はじめて成立する」(ヤン)
「何かを憎悪することのできない人間に、何かを愛することができるはずがない」(ヤン)
「クロイツェル伍長がおれのことをどう思うか、それは彼女の問題であって、おれの問題ではないね。おれが彼女をどう思っているか、ということなら、それこそおれの問題だがね」(シェーンコップ)
「美人をきらったことは、おれは一度もないよ。まして、生気のいい美人をね」(シェーンコップ)
「シェーンコップ中将は、卑怯の二文字とは縁がない人よ、と、そう言っただけよ。事実ですものね」(フレデリカ)
「(彼女たちは)よくもまあ、あんなしょうもないゲームに熱中できるもんだ」
「……しかし、まあ、笑声のほうが、泣声よりずっとましではあるがね」(キャゼルヌ)
第五章 ウルヴァシー事件
「指導者に対する悪口を、公然と言えないような社会は開かれた社会とは言えない」(ユリアン)
「ユリアン・ミンツは作曲家ではなく演奏家だった。作家ではなく翻訳家だった。彼はそうありたいと望んで、もっとも優秀な演奏家に、また翻訳家になったのである」
「彼は出典を隠したことは一度もなかった。剽窃よばわりされる筋合はまったくない。演奏されずに人々を感動させる名曲などというものはないのだ」(アッテンボロー)
「無用の心配をするな、エミール、予はいますこし見栄えのする場所で死ぬように決めている。皇帝の墓所はウルヴァシーなどというのは、ひびきがよくない」(ラインハルト)
「撃つがいい。ラインハルト・フォン・ローエングラムはただひとりで、それを殺す者もひとりしか歴史には残らないのだからな。そのひとりに誰がなる?」(ラインハルト)
「もとより、小官は生きて元帥杖を手にするつもりでございます。おそれながら、陛下とは建国の労苦をともにさせていただきました」
「ぜひ今後の安楽と栄華をも、わかちあたえていただきたいと存じますので」(コルネリアス・ルッツ)
「反逆者になるのは、いっこうにかまわん。だが、反逆者にしたてあげられるのは、ごめんこうむりたいものだな」(ロイエンタール)
「少年時代が幸福に思えるとしたら、それは、自分自身の正体を知らずにいることができるからだ」(ロイエンタール)
戦うからには、おれは全知全能をつくす。勝利をえるために、最大限に努力する。そうでなくては、皇帝に対して礼を失することになろう……。(ロイエンタール)
「民主共和政治とやらの迂遠さは、しばしば民衆をいらだたせる。迅速さという一点で、やつらを満足させれば、民主共和制とやらにこだわることもあるまい……」(ロイエンタール)
第六章 叛逆は英雄の特権
「卿を残した理由は、諒解していよう。ロイエンタールは当代の名将だ。彼に勝利しうる者は、帝国全軍にただ二名、予と卿しかおらぬ」
「ゆえに、卿を残した。意味はわかろう?」(ラインハルト)
「皇帝の御手を汚してはならんのだ」(ミッターマイヤー)
「ロイエンタールとおれと、双方が斃れても、銀河帝国は存続しうる。だが皇帝に万一のことがあれば、せっかく招来した統一と平和は、一朝にして潰えるだろう」
「勝てぬとしても、負けるわけにはいかんのだ」(ミッターマイヤー)
「ラングの非道をただすには、法をもってする。でなければ、ローエングラム王朝の、よって立つ礎が崩れますぞ」
「重臣中の重臣、宿将中の宿将であるあなたに、そのことがおわかりにならぬはずはありますまい」(ウルリッヒ・ケスラー)
「わが皇帝に敗れるにせよ、滅びるにせよ、せめて全力をつくして後のことでありたいものだ」
「戦うからには勝利を望むべきだ。最初から負けることを考えてどうする。それとも、敗北を、滅亡をお前は望んでいるのか」(ロイエンタール)
「度しがたいな、吾ながら……」(ロイエンタール)
「あなた、ウォルフ、わたしはロイエンタール元帥を敬愛しています。それは、あの方があなたの親友でいらっしゃるから」
「でも、あの方があなたの敵におなりなら、わたしは無条件で、あの方を憎むことができます」(エヴァンゼリン・ミッターマイヤー)
第七章 剣に生き……
「いや、ワーレン提督、お気づかいは必要ない。ロイエンタール元帥とおれとの友誼は、つまるところ私事であって、公務の重さと比較はできないからな」(ミッターマイヤー)
「だが、ロイエンタールを討って、それでおれの心は安らぎをえるのだろうか」(ラインハルト)
「おれは自分が何のためにこの世に生を亨けたか、長いことわからなかった。知恵なき身の悲しさだ。だが、いまにしてようやく得心がいく」
「おれは皇帝と戦い、それによって充足感をえるために、生きてきたのではなかったのか、と」(ロイエンタール)
「酔っているな、卿は」
「酒にではない、血の色をした夢に酔っている」(ミッターマイヤー)
「夢は醒める。さめた後どうなる? 卿は言ったな、皇帝と戦うことで充足感をえたいと」
「では戦って勝った後、どうするのだ。皇帝がいなくなった後、どうやって卿は心の飢えを耕すつもりだ?」(ミッターマイヤー)
「夢かもしれんが、いずれにしてもおれの夢の話だ。卿の夢ではない。どうやら接点も見出しえないようだし、もう無益な長話はやめよう」(ロイエンタール)
「……さらばだ、ミッターマイヤー、おれが言うのはおかしいが、皇帝を頼む。これはおれの本心だ」(ロイエンタール)
「ロイエンタールの大ばか野郎!」(ミッターマイヤー)
「前進、力戦、敢闘、奮励」
「突撃だ! ミッターマイヤーに朝食を摂る時間をつくってやろう」(ビッテンフェルト)
「青二才に、用兵の何たるかを教えてやるとしようか」(ロイエンタール)
「一度失ったものを、もう一度失っても、べつに不自由はせんよ」
「さて、これで悪運を切り離したぞ。恐れるべきものは、怯懦のみだ」(アウグスト・ザムエル・ワーレン)
「死ぬのがこわくて生きていられるか」(ポプラン)
第八章 剣に斃れ
「要するに敵も味方もセンチメンタリストの集まりだってことだな。イゼルローンは聖なる墓、か」(シェーンコップ)
「いうなれば、宇宙はひとつの劇場だよ」(ヤン)
「騒ぐな、負傷したのはおれだ、卿ではない」(ロイエンタール)
「どのみち、おれたちの人生録は、どのページをめくっても、血文字で書かれているのさ。いまさら人道主義の厚化粧をやっても、血の色は消せんよ」(ビッテンフェルト)
「……ふたりの人間の野心を、同時代に共存させるには、どうやら銀河系は狭すぎるらしい……」(メックリンガー)
「そうか、案外、世のなかにはばかが多いな」(ロイエンタール)
「きさまが民主共和政治を愚弄しようと、国家を喰いつぶそうと、市民をたぶらかそうと、そんなことは、おれの関知するところではない。だが……」
「だが、その穢らわしい舌で、皇帝の尊厳に汚物をなすりつけることは赦さん。おれはきさまごときに侮辱されるような方におつかえしていたのではないし、背いたのでもない」(ロイエンタール)
「どこまでも不愉快な奴だったな。おれが生涯の最後に殺した人間が武器を持っていなかったとは……不名誉な所業を、おれにさせてくれたものだ」(ロイエンタール)
「じゃまをせんでほしいな。おれは死ぬのではなく、死んでいく。その過程を、けっこう楽しんでいるところだ。おれの最後の楽しみをさまたげんでくれ」(ロイエンタール)
「古代の、えらそうな奴がえらそうに言ったことばがある。死ぬにあたって、幼い子供を託しえるような友人を持つことがかなえば、人生最上の幸福だ、と……」(ロイエンタール)
「ウォルフガング・ミッターマイヤーに会って、その子の将来を頼むがいい。それがその子にとっては最良の人生を保障することになる」(ロイエンタール)
「遅いじゃないか、ミッターマイヤー……」
「卿が来るまで生きているつもりだったのに、まにあわないじゃないか。疾風ウォルフなどという、たいそうなあだ名に恥ずかしいだろう……」(ロイエンタール)
第九章 終わりなき鎮魂曲
「表面的には互角に見えるかもしれないが、おれにはワーレンとビッテンフェルトがいた。ロイエンタールには誰もいなかった。いずれが勝者の名に値するか、論議の余地もない」(ミッターマイヤー)
「あれを見たか。おれは一生、この光景を忘れられないだろう。疾風ウォルフが泣いているぜ……」(カール・エドワルド・バイエルライン)
「それにしても、私も口数が多くなったものだ」(オーベルシュタイン)
「卿は死ぬな。卿がいなくなれば、帝国全軍に、用兵の何たるかを身をもって教える者がいなくなる。予も貴重な戦友を失う。これは命令だ、死ぬなよ」(ラインハルト)
10巻 落日篇
第一章 皇紀誕生
「吉事は延期できるが、兇事はそうはいかぬ。まして国家の安寧にかかわりあること、陛下のご裁断がどう下るかはともかく、お耳に入れぬわけにはいかぬ」(オーベルシュタイン)
「筋がちがう。一方の罪を明らかにするため、他方の罪を免じるというのでは、そもそも法の公正がたもてないではないか」(ケスラー)
第二章 動乱への誘い
政治的な要望と軍事的な欲求とは、しばしば背馳する。
「いま、遠慮なしにあんたが決断することこそ、期待にこたえる唯一の道じゃないかしら」(カリン)
「善政の基本というやつは、人民を飢えさせないことだぞ、ユリアン」
「餓死してしまえば、多少の政治的な自由など、何の意味もないからな。帝国の経済官僚たちは、さぞ青くなっているだろうよ。もしこれが帝国本土まで波及したら、と」(キャゼルヌ)
「ユリアン、陰謀だけで歴史が動くことはありえないよ。いつだって陰謀はたくらまれているだろうが、いつだって成功するとはかぎらない」(ヤン・ウェンリー)
「負けるけんかは嫌いだ」(アッテンボロー)
「おれたちは変化を待っていた。いま変化がおこった。これに乗じて、変化の幅を大きくするのも、りっぱな戦略だ」(ワルター・フォン・シェーンコップ)
「時きたるというわけだ。果物にも、戦いにも、女にも、熟れごろがあるものさ」(ポプラン)
敵をして、その希望がかなえられるかのように錯覚させる。さらに、それ以外の選択肢が存在しないかのように、彼らを心理的に追いこみ、しかもそれに気づかせない。(ヤン)
「ま、いずれにしても明日、死ぬことができるのは、今日、生きのびることができるやつだけさ」(アッテンボロー)
「同情するふりをしてもらわなくて結構だ。エキジビジョン・ゲームは二流俳優にまかせて、名優は皇帝陛下御前興行に出演するさ」
「むろん、惑星ハイネセン奪還作戦に決まっている。そう遠くのことでもあるまい」(シェーンコップ)
第三章 コズミック・モザイク
「能ある者が味方ばかりでは、戦う身としてはりあいがなさすぎる。まして、ヤン・ウェンリーを失って、宇宙は寂寥を禁じえぬところだ」
「メルカッツ健在と聞けば、おれはむしろうれしさを感じる」(ミッターマイヤー)
「ね、ヒルダさん、おわかりいただけるでしょうか。弟は、過去をわたしと共有しています。でも、弟の未来は、あなたと共有されるものです。いえ、あなたたちと……」(アンネローゼ・フォン・グリューネワルト)
「カリン、この前はおめでとう。戦果にではなくて、生還したことによ」(フレデリカ)
「あたしだって子供です。自分でもよくわかってます。他人に言われると癪だけど、自分ではわかってるんです」(カリン)
「たとえば、こうよ。あなたが大きくなったとき、男の人に、わたしはあのことを知ってるわよ、と言っておやりなさい。みんな必ずぎくりとするでしょう。これが母さんの予言よ」(オルタンス)
「ビッテンフェルト家には、代々の家訓がある、他人をほめるときは大きな声で、悪口をいうときはより大きな声で、というのだ」(ビッテンフェルト)
「民主共和主義者とかいう奴らには、言いたいことを言わせておけばいいのさ。どうせ口で言っていることの1パーセントも実行できるわけではないからな」(ビッテンフェルト)
「うかがおう、ビッテンフェルト提督、ただし手みじかに、かつ理論的に願いたい」(オーベルシュタイン)
「軍事的浪漫主義者の血なまぐさい夢想は、このさい無益だ」
「100万の将兵の生命をあらたに害うより、1万たらずの政治犯を無血開城の具にするほうが、いくらかでもましな選択と信じる次第である」(オーベルシュタイン)
「実績なき者の大言壮語を、戦略の基幹にすえるわけにはいかぬ。もはや武力のみで事態の解決をはかる段階ではない」(オーベルシュタイン)
「その皇帝の誇りが、イゼルローン回廊に数百万将兵の白骨を朽ちさせる結果を生んだ」(オーベルシュタイン)
軍務尚書の主張は、おそらく正しい、だが、その正しさゆえに、人々の憎悪を買うことになるだろう。(フェルナー)
第四章 平和へ、流血経由
「予は誤ったようだ。オーベルシュタインは、いついかなる状況においても、公人としての責務を優先させる。そのあらわれかたこそが、他者に憎悪されるものであったのにな」(ラインハルト)
「皇紀、予はオーベルシュタインを好いたことは、一度もないのだ。それなのに、顧みると、もっとも多く、おの男の進言にしたがってきたような気がする」
「あの男は、いつも反論の余地を与えぬほど、正論を主張するからだ」(ラインハルト)
「彼女たち(宮廷の美女)は、皮膚はまことに美しいが、頭蓋骨のなかみはクリームバターでできている。おれはケーキを相手に恋愛するつもりはない」(ラインハルト)
「毒なんぞ、とうに免疫になっておるさ。おれはオーベルシュタインの奴と何年もつきあってきたからな」(ビッテンフェルト)
「オーベルシュタインに私心がないことは認める。認めてやってもいい。だが、奴は自分に私心がないことを知って、それを最大の武器にしていやがる」
「おれが気にくわんのは、その点だ」(ビッテンフェルト)
第五章 昏迷の惑星
「独身者だけの楽しいパーティーに、妻帯者をまぜるわけにはいかんからね」(シェーンコップ)
「ジグソー・パズルを完成させるにしても、片がもともと不足しているのさ」(ポプラン)
「彼らが信じたくないなら、信じる必要はないのです。吾々は、ただ事実を話すだけで、解釈の自由は先方にあります」(ユリアン)
「おれが思うにだ、季節の変わり目には、かならず嵐があるものだ。それも、変わったと思いこんだ後に、大きな奴がな」(ビッテンフェルト)
第六章 柊館炎上
「それらが非民主的な手段によるものであったことは、この際、問題にならない。帝国の民衆は、民主的な手つづきなど欲していなかったからである」(ユリアン)
第七章 深紅の星路
「戦術レベルにおける偶然は、戦略レベルにおける必然の、余光の破片であるにすぎない」(ヤン)
「後世の歴史家って人種は、流される血の量を、効率という価値基準で計測しますからね」
「たとえ宇宙が統一されるまでに、さらに1億人が死んだとしても、彼らはこう言うでしょうよ。たった1億人しか死なずに、宇宙の統一は完成された、大いなる偉業だ、とね」(ユリアン)
「彼らが兵をもって挑んでくるのであれば、こちらにそれを回避すべき理由はない。もともと、そのためにこそ親征してきたのだ」(ラインハルト)
「戦わずして後悔するより、戦って後悔する」(ラインハルト)
「戦うにあたり、卿らにあらためて言っておこう。ゴールデンバウム王朝の過去はいざ知らず、ローエングラム王朝あるかぎり、銀河帝国の軍隊は、皇帝がかならず陣頭に立つ」
「予の息子もだ。ローエングラム王朝の皇帝は、兵士たちの背中に隠れて、安全な宮廷から戦争を指揮することはせぬ」
「卿らに誓約しよう、卑怯者がローエングラム王朝において至尊の座を占めることは、けっしてない、と……」(ラインハルト)
「冗談の一言は、血の一滴」(ポプラン)
「相手の予測が的中するか、願望がかなえられるか、そう錯覚させることが、罠の成功率を高くするんだよ。落とし穴の上に金貨を置いておくのさ」(ヤン)
「ぼくも同行するか、でなければ作戦自体を裁可しないかです。ぼくの目的は、皇帝ラインハルトと談判することで、殺害することではありません」
「そこのところを、まちがえないでください」(ユリアン)
「……OK、ユリアン、先に皇帝と対面したほうが、やりたいようにやるさ。礼儀正しく話しかけるか、あの豪奢な黄金色の頭に、戦斧を振りおろして、大きな紅玉に変えるか」(シェーンコップ)
「いや、屍体はひとつでいい。ラインハルト・フォン・ローエングラムの屍体だけでな。この世でもっとも美しく貴重な屍体ではあるが……」(シェーンコップ)
第八章 美姫は血を欲す
「それとも、いわゆる専制君主の慈悲や、その臣下の協力がなければ、ここへ至る力もないというのでは、何を要求する資格もあるまい」
「すべて、その者が姿を予の前にあらわしてからのことだ」(ラインハルト)
「皇帝ラインハルトとの戦いで死ねるのだ。せっかく満足して死にかけている人間を、いまさら呼びもどさんでくれんかね。またこの先、いつこういう機会が来るかわからん」(ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ)
「むろん、そのつもりさ。ものわかりの悪い父親になって、娘の結婚をじゃまするという楽しみができたからな。さあ、さっさと行ってしまえよ、時間がない」(シェーンコップ)
「銀河帝国の皇帝ともあろう者が、客人に会うのに、服装をととのえぬわけにはいくまい。たとえ招かれざる客であってもな」(ラインハルト)
「さて、誰が名誉を背負うのだ? ワルター・フォン・シェーンコップが生涯で最後に殺した相手、という名誉をな」(シェーンコップ)
「ワルター・フォン・シェーンコップ、37歳、死に臨んで言い残せり──わが墓碑に銘は要らじ、ただ美女の涙のみ、わが魂を安らげん、と」(シェーンコップ)
「ローエングラム王朝が、病み疲れ、衰えたとき、それを治癒するために必要な療法を、陛下に教えてさしあげます。虚心にお聞きください」
「そうしていただければ、きっとわかっていただけます、ヤン・ウェンリーが陛下に何を望んでいたか……」(ユリアン)
第九章 黄金獅子旗に光なし
「ありがとう、あなた、わたしの人生を豊かにしてくださって」(フレデリカ)
「オリビエ・ポプラン、宇宙暦771年15月36日生まれ、801年6月1日、美女たちの涙の湖で溺死、享年29歳。ちゃんと自分で墓碑銘まで撰したのに、死文になってしまって残念ですよ」(ポプラン)
「何よ、5回や6回殺されたってすぐに復活するような表情してたくせに。何で死んじゃうのよ。あいつに復讐してやるつもりだったのに」
「そうよ。わたしの産んだ赤ん坊を目の前に突きつけて、あんたの孫よ、お祖父ちゃん、と言ってやるつもりだったのに。それがあの不良中年には、一番効果的な復讐だったのに……」(カリン)
「民主主義って、すてきね」
「だって、伍長が中尉さんに命令できるんだもの。専制政治だったら、こうはいかないわ」(カリン)
「しかし何だな、人間、いや人間の集団という奴は、話しあえば解決できるていどのことに、何億リットルもの血をながさなきゃならないのかな」
「さあな、おれには論評する資格はない。なにしろおれは伊達と酔狂で血を流してきた張本人のひとりだからな」(アッテンボロー)
「予はフェザーンに帰る。予を待っていてくれる者たちが幾人かいるのでな。最後の旅をする価値があるだろう」(ラインハルト)
第十章 夢、見果てたり
「夢を見ていました、姉上……」
「……いえ、もう充分に見ました。誰も見たことのない夢を、充分すぎるほど」(ラインハルト)
「皇帝はもはやご逝去をまぬがれぬ。だがローエングラム王朝はつづく。王朝の将来にそなえ、地球教の狂信者どもを根絶する。そのために陛下にご協力いただいただけのことだ」(オーベルシュタイン)
「こんな場所でこんなことをするなんて、つい50日前には想像もしなかった。生きてると退屈しないでいいな」(ポプラン)
「勘ちがいしないでほしいな。ぼくは、ローエングラム王朝の将来に何の責任もない。ぼくがきさまを殺すのは、ヤン・ウェンリーの讐だからだ。そう言ったのが、聴こえなかったのか」
「それに……パトリチェフ少将の讐。ブルームハルト中佐の讐。他のたくさんの人たちの讐だ。きさまひとりの生命でつぐなえるものか!」(ユリアン)
「助からぬものを助けるふりをするのは、偽善であるだけでなく、技術と労力の浪費だ」(オーベルシュタイン)
「帝国などというものは、強い者がそれを支配すればよい。だが、この子に、対等の友人をひとり残してやりたいと思ってな」(ラインハルト)
「皇帝は病死なさったのではありません。皇帝は命数を費いはたして亡くなったのです。病に斃れたのではありません。どうかそのことを、皆さん、忘れないでいただきとう存じます」(ヒルダ)
「いいか、早死するんじゃないぞ。何十年かたって、おたがいに老人になったら再会しよう。そして、おれたちをおいてきぼりにして死んじまった奴らの悪口を言いあおうぜ」(ポプラン)
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
銀河英雄伝説 1-15巻セット (文庫)