真実の10メートル手前(米澤穂信)より言葉と名言の紹介

真実の10メートル手前(米澤穂信)

 ジャーナリスト太刀洗万智が事件の確信に迫っていく物語。

 

 マスコミにも取り上げられたベンチャー企業が経営破錠したことにより
社長とその妹が失踪した。

 

 妹の早坂真理について行き先の情報を掴んだ太刀洗と藤沢が
不確定な情報を頼りに会いに行くのだが...

 

 表題作「真実の10メートル手前」を含む、全6話の短編集。

真実の10メートル手前

 

万智と相方

 

 「すると、こういうことですか。僕たち、本社に喧嘩売って早坂真理の
 コメントを取りに行くってことですか」
 「喧嘩っていうのは大袈裟だけど、怒る人はいるかもね」

  会社のメンバーにも秘密にして、自分の考えに従うというのはかっこよくはあるが、
 迷惑とも言える。

 

  現実は小説のように都合よく進まないですからね。

 

必要最小限

 

 必要最小限の情報共有は怠ってないはずなのに。

  情報共有について問われた、万智の答えになります。

 

  情報共有について個人主義の考え方を持っている。

 

  会社人間にとって周りはライバルだから、必ずしも間違ってはいない。

 

  ただ間違いなく、組織としてはマイナスになる。

 

  ただこれでも許されるのは、少し憧れる気持ちもある。

 

  かなりの実力を要求されるけど...

 

笑顔

 

 わたしは、精一杯微笑もうとする。
 意識してそうしないと、誰もわたしが笑っているのだとはわかってくれないのだ。

  無愛想な自分を意外と気にしている。

 

  しかし根本的なところは気にしていないみたいだが... 

 

仕事モード

 

 手練手管を用いた交渉よりも、包み隠さず話す誠実さの方が有効だと
直感していた。
 こういう直感は、あまり外さない。

  手練手管を使うのは、相手を「騙してやろう」や「引っ掛けてやろう」という
 気持ちが見えてしまう。

 

  個人としては、かなり嫌悪感を感じる。

 

  特に自分が知っている方法で、誘導する話しをされるとイライラする。

 

  相手が明らかに悪意を持っている場合、もしくは悪い空気になった時の
 対応以外では、普通の対応がもっとも効果的である。

 

正義感

 

人身事故

 

 およそ世の中に、これほど人に迷惑をかける死に方があるだろうか。
 高いところから飛び降りて他人を巻き添えにする場合もあるだろうし、
海に飛び込んで周辺の住人を捜索に参加させる場合もあるだろう。
 しかし電車を止めて死ぬのは、迷惑する人数の桁が違う。
 そんな最後を遂げざるを得なかったのは、育ちが悪かったせいに違いない。

  

  少し長いが全文をピックアップしました。

 

  不謹慎だが、電車に乗っていると本当に人身事故が多い。

 

  ある一定の時間に乗っているだけでも、かなりの頻度で遭遇する。

 

  日本では毎日どこかで起こっているのではと感じてしまうぐらい。

 

  そして被害者のことを思うほどの余裕は、残念ながらもてない。

 

  自分のことで精一杯。

 

  これは公には言えないが、誰もが持っている本心かも...

 

無関心

 

 目の前で人が死んだこの四番ホームでも悲鳴一つ上がるわけでもなく、
迂回ルートを求めてホームを出ようとする人々がのろのろと下り階段へと向かっている。
 この街で、人身事故は珍しくもない。
 誰もがこんなことには慣れている。

  淡々と書いているがが、ちょっと怖い。

 

  けどイメージできる自分がいる。

 

  普段、同じような光景に何度もあっている。

 

  このような場所に遭遇した場合、みんなの興味は被害者ではなく、
 移動できなくて困っている自分になっている。

 

  復旧時間以外に、みんなの感心はない。

 

  自分も同じ行動を取っていると考えると少し恐ろしい...

 

空振り

 

 単に、わたしが恥ずかしい思いをして終わるだけよ。ただの空振り。
 この仕事には付き物ね。

  犯人を見つけるため、不思議な行動をした万智の言葉になります。

 

  その行動によって、自分がどう思われるかは気にしていない。

 

  理由はネタバレになるので伏せておきます。

 

本心

 

 そのつもりだったけど、本当に心から、そうだったのか。
 目の前で事件に遭遇したことを喜ぶ気持ちは、全くなかったと言えるのか。

  記者は「真実を追求する」という大義名分を持つ。

 

  そして記者にとって事件は仕事である以上、不謹慎ではあるが間違いではない。

 

  好きかと聞かれたら別の答えになりますが...

 

恋累心中

 

いい子

 

 いい子だったのかもしれない。
 しかし、もしかしたら、嫌な役割を押しつけられる、
流されやすい子だったのかもしれない。

  先生が心中した生徒のことを「いい子」と表現したことによる、心の声になります。

 

  私は「いい子」というのは、「都合のいい子」と同じと解釈している。

 

  「真面目な子」も似たようなもの。

 

  例え正しいことを言っていても自分のイメージと違ったり、反抗したりする子を
 「いい子」とは言わない。

 

  しかしこのことを人に話すと、多くの場合反論を受ける。

 

  「自分はそんなことは思っていない」「あなたは考え方がひねくれている」という感じ。

 

  別にその人自体を批判している訳でも無いのに、同意を受けることはほとんどない。

 

  みんなそれほど自分が可愛いのですかね?

 

明日

 

 「...どういう取材を想定しているのですか」
 「それも明日お伝えします。もしかしたら、上手くいかないかもしれないので」

  戻る予定だった相方を万智が引き止めた時の言葉になります。

 

  相変わらず秘密主義。

 

  けどこれでも引き止めることが出来たのは、万智が実績を見せていたため。

 

  結果は言葉を補正する。

 

報道内容

 

 週刊誌でも、一般的な読者は刺激的な話には興味をそそられる一方、
本当の悲惨からは目を背けがちだ。

  この言葉から別のことを考えてしまった。

 

  週刊誌に限らずメディアは「本当に伝えなければいけないことを伝えているのではなく、
 読者や視聴者が興味のあることを伝えている」。

 

  世界中では内戦などで、日本では考えられないぐらいの人が亡くなっているが、
 日本で伝えられるのは芸能人の不倫などになる。

 

  また他にニュースが無いときには何日も続いたものが、別の大きな問題が発生すると、
 まるで忘れたかのようになる。

 

  限りある紙面と時間なのだから全てを伝えることは不可能なのは分かる。

 

  しかし選別しているマスコミが間違った場合、どうすればいいのだろうか?

 

一石二鳥

 

 はい、明日の保証がない仕事ですから、狙える時は一石二鳥も狙います。

  取材の姿勢に対して万智が語った言葉になります。

 

  フリーは厳しいですからね。

 

名を刻む死

 

記者と被害者

 

 あなたもずいぶん囲まれたでしょう。それで、記者を好きになった?

  ある事件で取材を受けた少年に対して、万智が話したことになります。

 

  その少年は別の事件での取材に同行を希望していた。

 

  ただよほどの目立ちたがりは除いて、被害者の関係者が記者の取材を
 喜ぶとは思えません。

 

  少なくとも私が同じ立場なら嫌悪感を抱くでしょう。

 

  「その嫌われる立場としての覚悟が出来ているか?」との問いかけと言える。

 

  報道記者が遠慮することはない

 

  ただあくまで、対象者の感情を気遣うだけの気持ちは持っていてほしい...

 

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ナイフを失われた思い出の中に

 

メディアの正当性とは?

 

 正当かどうか、という質問は大変重いものです...
 わたしは、調べることが好きで、人より上手でもあります。
 それを生活の手段にしているだけで、正当と思ってしているわけではありません。

  仕事の正当性を聞かれた時の万智の答えになります。

 

  少しの沈黙と考えた後、語っている。

 

  記者は自分を正しいと思えなければ出来ないでしょう。

 

  しかし自分だけが正しいと考えるようなら、かなり問題がある。

 

  正直、現代において「正当かどうか?」など問題になっていない。

 

  「何が正しいか?」ではなくて、「何を正しいと考えなければいけないか?」と
 矯正されているような気がする。

 

  メディアの正当性とは一体何でしょうか?

 

メディアが伝えていること

 

 彼らは、私の国の三人のごろつきのうち、一人だけが間違っていると考えていました。
 もちろん、それは真実ではありません。
 三人はみな多かれ少なかれ間違っていて、そして全員がごろつきだったのですから。

  ある国では内乱が起こっていた。

 

  その時の話をしています。

 

  三人のごろつきとは、三人の指導者のこと。

 

  そしてメディアは一人だけ間違っていると伝えていた。

 

  しかもそれは真実ではなく、そう決めていたことを伝えていたらしい。

 

  もちろんこれはフィクションだが、歴史上これに似た話は山ほどある。

 

  もちろんそれによって救われる場合もあるので、100%の悪ではない。

 

  ただメディアが流れを作るのは間違っているような気がする。

 

  それにしても三人共がごろつきだったなんて、やりきれない話です...

 

公平と不公平

 

 彼は私たちの友人でした。
 しかし彼にとって不幸だったのは、あなたの同業者たちが用意していた結論を
知らなかったことです。
 そのカナダ人は公平であろうとしたために、不公平と罵られ、あなたたちに
破滅させられました...
 失礼。彼らに、です。

  悲しいことです。しかし似たようなことは沢山あるでしょう。

 

  表現が上手い人にとって、何が正しいのかを作ることは簡単でしょう。

 

  なぜなら正しいかどうかは問題ではない。

 

  正しいと思ってもらえればいいのだから。

 

  「人はそれほどバカではない」と思うかもしれない。

 

  しかし正しいかは「多数決」か「発信力」の差でしか無い。

 

  極端にいえば世界中の大多数が「1+1=3が正しい」と言えば「1+1=2」
 が間違いになります。

 

  「そんなバカな」と思うかもしれませんが、これと同じぐらいのとてつもないミスが
 歴史上にあります。

 

  「地球が回っている」と昔に語れば、キチガイ扱いされたのですから...

 

報道の役目

 

 目とは、人が見たいと思っているものを見るための器官なのです。
 錯覚にまみれ、そこにあるものを映さない。

  メディアが「目」であってはいけない、と考えている万智の言葉になります。

 

  少し分かりにくいですね。

 

  例えば、目の前に美人とそうでない二人の女性がいたとします。

 

  多くの人が美人に目を向けることになるでしょう。

 

  しかし事実は、「女性が二人いる」です。

 

  そこに美醜は意味を持たない。

 

  しかし現実のメディがどちらなのかは、各自の判断で...

 

綱渡りの成功例

 

被災現場の映像

 

 俺はあまりそこは気にならなかった。
 むしろその後、救出劇という言葉「劇」という文字に、ざらりとした感触を覚える。

  私も同じ言葉に今まで何度も出会ったが、改めて問われるとかなり違和感がある。

 

  明らかにショー的な響きが聞こえる。

 

  多くの人の不幸、多くの救出に関わる人達、更に人の生死すらメディアを
 通して娯楽として見ている状態である。

 

  「娯楽」というのは言いすぎかもしれないが、情報だけ知りたいのなら映像はいらない。

 

  結果だけ言葉や文字で知ればよい。

 

  まして被害者が運ばれている状況を撮影するなんて悪趣味以外の何物でもない。

 

記者の質問

 

 警察なら訊くこともあるだろうけど、わたしは警察じゃないからね。
 答える側にしこりが残る質問はしたくない。

  被害者への取材に対する、万智の考え方になります。

 

  記者は真実と被害者の、どちらを優先しないといけないのだろうか?

 

記者というものは

 

 自分の問いで誰かが苦しまないか、最善を尽くして考えたつもりでも、
最後はやっぱり運としか言えない。
 わたしはいつも綱渡りをしている。特別なことなんて何もない。
 単に、今回は幸運な成功例というだけよ。いつか落ちるでしょう。

  記者であり相手に問いかける以上、必ず何らかの反応が生まれる。

 

  その全てが、全員に好ましいことなど無いといっていいでしょう。

 

  それでもより多くの事実を、そして真実を知るためには、多くの人を
 不幸にすることもあるかもしれない。

 

  何が正解かわからない以上、自分にとっての「最善」を尽くしたいものですね。

感想

 

  この作品はフィクションだが、多くの現在とリンクしている。

 

  6編の内、一つも楽しい話はなかったが、非常に考えさせられた。

 

  何かのマンガで「真実はいつも一つ」と言っているが、それは違う。

 

  人それぞれに正しいことがあり、自分と意見が異なるからと言って、
 どちらかが間違っているわけではない。

 

  両方共正しいかもしれないし、両方共間違っているかもしれない。

 

  そして多くの場合、争いとは意見の相違から起こる。

 

  第三者からみたら「なぜ?」という理由で争いが始まる。

 

  これは歴史が証明している。

 

  認めたくは無いが、それを収めるためには「みんが納得できる正しいこと」
 というのをメディアが作り上げ、発信することは好ましいのかもしれない。

 

  ただその場合、誰かの利益を優先して発信させることが多いのが残念ですがが...

 

  報道について考えたい人におすすめの作品です。

 

 

 

→「王とサーカス」へ

 

→「さよなら妖精」へ

 

 

 

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